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雪虫 2
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しおりを挟む「カルシウムもっと摂るようにしないとダメだよ?怒りっぽくなるからね。骨にもいいし、料理にとりい 」
へらへらといつもの調子ではぐらかそうとした言葉を無視して、低い声を出す。
「 ────あいつら、『体さえ持ち帰れば十分』って言ったんだ」
さすがにへらっとした表情が消えて、続きを促すような視線がオレを見る。
「それはつまり、さっき先生が言ったような目的で攫ったんじゃないってことだろ」
Ωの発情期の体を楽しむのも、いたぶって楽しむのも、子供を産ませるのだって、すべては生きていなくちゃいけない。
なのに、体の弱い雪虫をあんなふうに無理矢理攫って……
あいつらは、死体でも構わないって言ったんだ。
「『オモチャ』ってなんのこと?」
「玩具?」
つい問い返したような言葉を思うと、瀬能はそのことに関しては知らないんだろう。
「…………」
「君は、雪虫を攫った男の顔に見覚えはなかったかな?」
「……いえ」
左目の上の傷に引っ掛かりがないわけじゃなかったけど、心当たりにある男とあの雪虫を攫った男とでは顔が……
顔が?
「……ない と、思うんですけど」
「思う?」
記憶を手繰るために視線を動かしてみても、引っかかるものがない。
「傷……は、気に掛かるんだけど。初めて見る顔……だったと思う」
そうなのに、どうしてだか引っ掛かりが拭えない。
「どんな男だったか覚えてる?」
「当たり前だろっ! 」
そう怒鳴って瀬能にどんな顔か言おうとして言葉が喉につっかえた。
オレがどんな反応をするかわかっていたのか、瀬能は苦そうな顔をしてデスクの上をトントンと指先で叩く。
「その様子じゃあモンタージュも難しそうだね」
「……」
オレが?
覚えてない?
「先生は?」
「言い訳はさせてくれるのかい?」
「年だからって言うのなら受け付けます」
そう言うと瀬能はちょっとオレを睨みつけてから椅子の背もたれに体を預ける。
「まぁ、アレだ。君が魔法のようだ と言っただろう」
観念したような喋り方だから、本当はオレに話す気のなかった話なのかもしれない。
「『止まれ』ですか?」
「うん、リリーサーフェロモンってのがあるんだけどね、まぁそこら辺の応用じゃないのかって話だよ」
バース性の話をしていると言うのに瀬能の言葉は歯切れが悪く、中身が誰か違う人間に乗っ取られているんじゃないのかって不安が首をもたげてくる。
「あの男の顔が分からないのも、そうじゃないのかって話なんだけど……」
そこであっと声を上げてしまった。
促すような、世間を斜に見たような目がオレをひたと見つめる。
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