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雪虫 2
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しおりを挟む「……素直に笑えばいいじゃないですか!」
足は捻挫だったらしいが、雪虫を噛む際に一緒くたに噛みついたオレの指の骨にはヒビが入っているらしい。
「いや、いや、まぁ、いい判断だったよ。君のこの尊い犠牲がなかったら雪虫の首を噛み千切っていたかもしれないからね。現に時折、勢い余って食いちぎった……なんて報告もあったりするんだから」
ふとオレから視線を外す横顔は、そうならなくて幸いだった と物語っている。
少しの傷でも、命取りになるかもしれない。
そんなざわざわする言葉が拭っても拭っても脳裏に蘇ってくる。
雪虫の首を噛んだあの時、ぎりぎりの理性でそれでも絶対に雪虫だけは傷つけちゃいけないってずっと思っていて、地面や木の枝が雪虫に触れないようにしていたつもりだったんだけど……
手足についた小さな傷は熱を持って……
それから、なんの準備もなく無理をさせたせいか、今雪虫は発熱のせいで体を起こせないでいる。
いや、それにあの誘拐の精神的ショックもあるんだろうけど……
「先生。……あいつら、何?」
湿布と包帯でぐるぐる巻きにされた右手を見下ろし、答えてくれない可能性が高いのを承知で問いかける。
画面の骨を辿るように動いていた指が止まって、いつもの胡散臭い笑顔がこちらを向く。
「オメガは非常に魅力的な存在だ。発情期の淫らさ、嗜虐心をそそる容姿、そして男でも子供が産めると言う生殖機能。まぁ悪い奴らの標的になるのは当然だよね」
Ωは総じて容姿がいい と思う。
あのセキですら、初めて見た時はそう思ったんだから……
でも、そうじゃない。
「どうして雪虫だったんだ?」
瀬能の胡散臭い笑顔はぴくりともせず、逆にそれが聞かれたくないことなんだってわかった。
「あの場にはセキだっていた。わざわざ二階に行くよりも、そのままセキをリビングの窓から連れて行った方が簡単だろ?」
「セキくんは暴れるからじゃない?」
「雪虫だって暴れるだろ?」
「弱そうな子を狙うのは定石だよ?」
「顔を見たこともないのに弱いなんてわかるのか?」
「雰囲気で感じたとか?」
とぼけるのも苦しくなってきたのか、到底納得できないような返事になってきたことに苛立って、勢いよく腕をデスクに振り下ろす。
飛び上がりたくなるような大きな音がして、瀬能が一瞬だけ胡散臭い笑顔を引っ込めたけれど、完全に剥がすことはできなかったようだった。
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