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雪虫 2
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しおりを挟む身を竦めたくなるようなひやりとした風が首筋を撫でる。
こんな場所に……時間がどれだけ経ったのか確認のしようはなかったけれど、すぐそこが海であまつさえ日の光なんて入らないじめじめとした場所に雪虫が長時間いたことに気づいて目が回りそうだった。
人目を避けてつかたる市から出て行くのだとしたら、少なくとも外が明るいと言うことはないだろう。
ほんの少し空気が冷たいだけで喉を枯らすし、
ほんの少し暑いだけで薄い肌はかぶれを起こす、
気を抜けば熱を出したり、食欲を無くしてしまう、
そんな普段の生活すらもあやしい雪虫が……
オレですら体が冷えてしまっているのに、体温を保てない雪虫では凍えてしまっているんじゃないかと思うと、ぎりぎりとまた再び奥歯が鳴った。
「 仙内さん、アレ、ぐったりし始めましたけど」
「 どうだっていい。体さえ持ち帰れば十分だ」
雪虫がどうなろうと構わないと言うことは、たとえその体に魂が入っていなくても構わない と言うことだ。
オレの、Ωである雪虫を、ぞんざいに扱う と?
ざ と一瞬で頭に血が上ったのに妙に冷静で、代わりに腹の奥底の方からふつふつとした黒いものが溢れ出す。
「 ────止まれ」
飛び起きたと同時に発した言葉は自分が思うよりも静かで冷たく、固かった。
感情を乗せないようにするのがコツだ と、頭のどこかで大神の声が蘇ったけれど気にしている暇はない。
大神の言っていた強制力であるこれの効果は一瞬で、ましてや使う人間からしてみれば気を張っていればなんてことはないただの言葉なんだから。
僅かにしか視界の利かない闇の中で、オレの上げた声に一瞬二人の動きが止まった気がした。
それはただオレの声に驚いただけかもしれないし、そうじゃないかもしれなかったけれど、それだけで十分だ。
「 っ!」
手の中の小石を二人の顔に向けて投げつけると、避けることができなかったのか幾つかパシパシと小気味よい音がして小さな呻き声が上がった。
その隙に駆け出して手を伸ばす。
暗い中なのに仄かに白く浮かび上がって見えるような、オレには雪虫がそう見える。
「なっ 」
掬い上げるようにして雪虫を抱え上げると、先か後かもわからないような闇の中を駆け出す。
軽い、
花束を抱えたんじゃないかって、
むせ返るような花の匂いが鼻に届いて、よそ見をする余裕のないオレはそんな馬鹿なことを考えた。でも走り出したオレの頬を細い絹糸のような髪がくすぐるから、腕の中の温もりが花なんかじゃなくて雪虫だって教えてくれた。
記憶にあるよりも少し軽い気がする。
がむしゃらに走るせいか雪虫を揺さぶってしまうのが、申し訳なくて申し訳なくて……
綿で包んでゆっくりと運んでやりたかったけど、さっきの奇襲で稼げた時間なんてわずかな物なのは良くわかっている。
抱えて走る振動がぴくりとも動かない雪虫にどれだけ負担を強いているのか。
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