OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
776 / 801
雪虫 2

38

しおりを挟む


 大急ぎで……と言うか、止めるのを振り切って飛び出してきたんだけど、携帯電話くらいは持っておくべきだった。

 辛うじてタグはつけたままだけど……

 雪虫のものと同じだから、結局はオレのタグの信号も同じ位置で動かなくなる訳だから、ここにいると気付いてもらえるかどうかは、正直わからないとしか言えない。
 今更ながらにちらりと後ろを振り返って、黒服のうちの誰かでもついて来てはしないかと期待してみる。

 ……が、トラックが突っ込んで皆が右往左往してて、挙句大神が事故に遭ったと知らせがあったきりなのだから、オレなんかを気に掛ける奴はいないのかもしれない。

「  ────っ やめっやめだっ!」

 ぱしんっ!と一発大きく頬を両手で叩き、この期に及んでもまだ誰かに頼ろうとした気持ちを振り払う。

 直江もセキも瀬能も、それにあの黒服の男達も結局は大神側の人間で、優先順位からしたらオレや雪虫は大神に比べたら圧倒的に低い。

 こんな状況が重なった状態で甘えられると思う方が間違っている。

 ぐっと立てかけてある木の板をずらすと、軽いんじゃないかと思っていたのに針金で隣と繋げてあるせいか思いの外重量があって、思うように動かないことに気づく。
 往生際が悪いのは百も承知だし、悪足掻きだってわかっているけれど、全身の力を使ってその木の板をずりずりと動かして通路に日の光を入れてみる。

 日差しが強くなってきたとは言っても、城の地下にまで続く通路すべてを照らせるわけもなく、せいぜい入り口から数歩だけを明るく照らす。

 長い間日に晒されていないのが分かる剥き出しの通路の表面は、それだけでじっとりとした湿気を含んで重苦しい雰囲気だった。

「…………」

 それでも、

「  雪虫の、 」

 微かな甘い匂いがして……

 例えそれが黄泉への道行だったとしても、オレは引き返したりはしなかった。





 寒さに体を震わせると、その振動で手の中の小さな小石が幾つか零れ落ちて土を叩く。
 固められた冷たい土に頬をつけた状態で、いったいオレは何をしているんだろうかと、事情が呑み込めないままに体を動かそうとしてはっと息を詰めた。

 先程小石が立てた音を、『やつら』が聞いてやしないか と。

 意識がはっきりとした瞬間、脳裏に鮮やかに蘇ったのはオレを背後から襲った硬い腕の感触だった。


 地下通路に入った当初はその一筋の明かりもない状態に戸惑いもしたけれど、幸い真っ暗だ と思っていた最初の内だけで、目が慣れて来てしまえば内側を固めている土が白いせいか辺りがほの明るく見え、歩くのには問題はなかった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...