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雪虫 2
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しおりを挟む「コーヒーありがとう」
タブレットから目を離さずにそう言うと、瀬能はそろそろと手探りでカップを見つけると、指先と同じようにそろりと温度を確かめるように口をつける。
「お。ぼくの好み、もう覚えた?」
「え?あー。まぁ」
普通の時はブラックで、何かに集中している時は温くなるように牛乳でうめる、何かを考え込んでいる時には砂糖を入れて。
正直面倒くさい。
「君は、あれだね。出してくれる食事も好みに合わせて少しずつ変えてくれているし、よく気が付くね」
そう言うものなのか……と思うけども。
「食事の仕方も綺麗だし、しずる君と食事をするのは楽しいよ」
ぐっと目頭を指で押すと、集中力が切れたのか瀬能は大きく腕を伸ばして息を吐き出した。
食事の仕方 と言われても、普段から気にしてしているものではないし、取り立てて特別なことをしている気もないせいかそんなことを言われるとなんだかムズムズする。
「ほら、比べちゃあれなんだけど、セキくんのお箸の持ち方とかってちょっと独特だから」
瀬能はやんわりとした言い方をしているけれど、なるほど……確かに、握り込むようにして持つ箸の使い方はオレの使い方とはずいぶん違う。
あんまり気にはしてなかったけど……まぁ、年配の人間から見ればちょっと気になるところなんだろう。
「雀百まで……ではないけど、そう言うちょっとしたところでその人の育ちが分かるんだよ」
「育ち って、オレそんないい家庭では育ってないですよ。知ってるでしょ」
よその女に手を出すジジィとパチンカスで手癖の悪いババァと……
借金だらけで高校は授業料滞納だったし、息子を切り売りした挙句、ヤクザのシノギに手を出すなんて普通の一般家庭なんかじゃない。
「昔は、そうでもなかったんじゃない?」
「ん まぁ、そうですけど」
「片付けと言われて何をどこまで片付けるか、掃除と言われてどこまで綺麗にするか、客が来た時の対応、物の考え方、それから人のもてなし方、すべてきちんとした生活をしてこなければ出来ないことだよ。特に君は、まだ社会に出ているわけではないから、影響は家庭から受けたものだろうからね」
「そん そんなことは 」
そんな上品な家庭じゃなかった って言い返そうとしたけれど、幼い頃のことを思い出せばそれなりに丁寧に暮らしていた記憶はある。
若く結婚したからか生活は裕福ではなかったけれど、ジジィはちゃんと働きに行っていたし、ババァは工夫を凝らしてそれなりに心豊かに、丁寧な生活はしていた。
図書館から借りてきた本を読んでくれたり、休み毎に三人で公園に行ったり、小さな箸の練習をにこにこしながら見てくれていたり……
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