OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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雪虫 2

8

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「しずる?しずる?  どうしたの?」

 カシ カシ  と爪が滑って気持ちの悪い音がする。

「……ちょっと  ボーッとしてた」
「  びっくりした」
「ごめん、でも ぎゅっとしたくて  」

 扉のに額をつけるとひんやりとした感触に、少しは頭の中がスッキリするかと思ったけれど、逆に雑念がなくなって、ただただ雪虫のことだけが頭に残った。




 みなわと言う人物に、どうしてこうも警戒心を抱くのか、オレ自身がよくわからない。

 独特な喋り方のせいか、
 薄幸そうな出立のせいか、
 やけに人の懐に入ってこようとするせいか、

 考えても答えが出ない。


 ……そして答えが出ないまま、その人はオレの膝の上に乗っているわけだけども!

「  降りてもらえませんか」

 押し除けてソファーから立ち上がろうとするも、するりと手足のどこかが絡みついて離れない。

「なんでなん?重い?」

 重いか重くないかで言われたら吹けば折れそうなこの人は軽い、でもオレの比較対象は雪虫だけなせいか、十分重かった。

「ですね、重いんで退いてください」
「つれないん?なんで?」
「興味がないからじゃないですかね」

 首に回された腕を取っている間に足が絡まってくる。

 太腿に尻が乗っかっているが、なんとも思わないと鬱陶しいとしか思えない。

「イケズやな?」
「意地悪ってことですか?」
「せやね」

 こうやり取りしている間も懸命に手足を剥がすのに、一向に離せる気がしない。
 鼻の周りでふわふわとフェロモンが舞って、苛々と顔を背けて逃げる。

「フェロモン引っ込めてくださいよ!ホント、いけずでもなんでもいいんで降りてくれ。迷惑」

 ほっそりとした顔立ちの端正な顔が悲しそうに歪んで、目の縁に光るものが盛り上がる。

 唇が引き結ばれて、その光るものがつぅ と頬を伝って落ちた。目の前で泣かれるとさすがにどきりと罪悪感が湧いて、押し除ける手の力を緩めてしまって……

 しなだれかかられ、緩くうねる髪が肌をくすぐってくるが、ゾワゾワとした悪寒しか感じない。

「なんで駄目なん?なんでそんなに冷たいん?」

 細い指先がシャツ越しに胸の上に置かれて、ひやりとした体温と、汗をかいているのかしっとりとした感触を伝えてくる。


「嘘泣きだからじゃないかな?」


 オレとみなわの間に割り込んできた瀬能がさらりとそう言い、穏やかな手付きで引き剥がしてくれた。

「イケズー!」
「はいはい。若者に手を出すのは厳禁だよー」
「じゃあ先生しょうや」
「ぼくヘテロだし妻帯者なんで」

 左手の薬指に嵌った指輪を見せて躱すと、瀬能は腕時計を見て上を指した。



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