OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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黒鳥の湖

落ち穂拾い的な 『時宝』

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 カレンダーを確認すると、今日は銀花達のおけいこの日だ。

 それならば と、最近父さんが作るのに凝っているマカロンとピーナッツバターを手土産に顔を見せることにした。
 おけいこの場所は仁達の家の片隅で……って言っても、ちょっとした公園の広さが取られているんだから、金持ちの空間の使い方って理解できない。

「トラさーん!」

 手を振りながら声をかけると、仁を座布団にして休憩していたトラさんが手を振り返してくれる。

 汗をかいて暑そうに袖を捲っているのに、外さない黒い手袋が印象的だった。

「よー六坊どうした?」
「今日、おけいこ日だったから差し入れだよ」

 そう言って紙袋を手渡すと、トラさんは嬉しそうに満面の笑みを作る。

「汗かいたから、ちょうど甘いもん食いたかったんだ」

 そう言ってちらりと視線を遣る先にあるのは、返事が返って来なさそうな屍のような銀花たちだ。こてんぱんにされて指一本動かせなくなってるんだなってのが分かって……

 才能なくてよかった。

「んで?なんか用があったんだろ?」
「あ、うん、あの この前、暴漢?を、撃退して」
「ああ、大活躍だったらしいな」
「活躍は……できたのかなってとこだけど」

 結局、仁達が来てくれなかったらシュンを助けることはできてなかったと思うし、オレは負けていただろう。

 小さい頃からおけいこをつけてくれていたトラさんにそれを言うのは恥ずかしくて、もじもじと肩をすくめて俯く。

「それで?」
「それでなんだけど」

 そう言って、トラさんからちょっと距離を取って半身に構える。

 それだけで何かを察したのか、トラさんの表情が変わって……

「…………」

 ひと、
 ふと、
 みと、
 よと、

 いつと。

 独特の数え方だと思う。

 それを思い浮かべながら、ゆっくりと指を揃えて整えていく。
 整えた指は心の指針であり、これが乱れるとすべてが乱れるのだ と、幼い頃からトラさんは教えてくれていた。

 構えを止めて、ほんのわずかに肩を落とすと、その瞬間息を詰めていたトラさんがはぁと大袈裟に溜息を吐き、張り詰めていた何かが緩んでしまったのがわかる。

「誰がそんな変なクセを教えたよ?ちょっと弛んでねぇか?締め直してやろうか?」
「や、違くて、ちょっと崩し気味だけどこれってトラさんとこの流派でしょ?」
「ああ」
「友達を襲った三人組の一人が、これやってたの」

 一番手強かったαだ。

 αの優性が強いだけじゃなくて、何か習ってるな って感じがしていたから、ずっと考えてたんだよね。

「この型を取った時にちょっと下げるって言うか斜に構える変なクセがあって。トラさんだったらなんか知ってるかなぁって」
「    …………」

 んー……と低く唸りながらトラさんは無精ひげの生えた顎を撫で続けている。

「一人、心当たりがある」

 ぴょっと飛び上がってトラさんに詰め寄ると、なんだかちょっと複雑そうな顔をしていて……
 呻くトラさんの目は険しくて、シュンを襲ったやつを掴まえるきっかけになるかもだけど、オレはちょっとびびって聞いたことを後悔してしまった。


「  ────たしか、時宝って奴だった」


 トラさんの声は低く唸るようだった。



END.
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