OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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黒鳥の湖

落ち穂拾い的な ここでも六華

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 腕にしがみついているシュンがぎゅうと更に力を込めるから、下心なんてなかったはずなのになかったはずのそれがムクムクと頭をもたげてくる。
 つるみ始めて数年目にして、これはちょっといい加減オレにもワンチャンあるんじゃないかって期待しちゃうシチュエーションなんだけど、残念なことにシュンの目はこちらを見ていない。

 せっかく大人の男っぽくカッコよくきめてみたのに……

「あの、シュン。ちょっと緩めて……」
「だ、だ、だって、こんなにアルファばっかりなんて思わなかったんだもん!」

 って言って更にぎゅうってしてくる。
 そのぎゅうってしてる相手もαなんだって、きっとシュンは忘れてる。

 まぁ確かに、オレもここまで規模の大きいものだなんて思わなかった。
 先輩はオレと同じ一般家庭育ちの研究員だし、恋人もヒモ同然の役者の卵って聞いてたから……

「まぁ、ドレスコードのあるお祝いパーティー開くって段階であれ?って思わなくもなかったんだけどさ」

 ぼやくオレの背をバッシンバッシンと叩いたシュンが、なんか有名人がいたってはしゃいでいる。

「それよりさぁ連れてきてあげたんだから、シュンも約束守ってよ!」
「えぇ……セッティングの努力はするけどさぁ、アルファと合コンなのにオメガより可愛いのに来られても困るだけなんだよね。空気悪くなるんだもん」
「もう可愛くないもん、ちょっと大人っぽくなってカッコ良くなったねって言ってもらえてるもん」
「誰に?」
「お父さんと銀花に!」

 はぁーって大きなため息を吐かれても!

「あ!阿川くん!」

 ぶすくれていると肩を叩かれて名前を呼ばれた。

 聞き馴染んだ先輩の声だったから、やっと知り合いに会えたんだってホッとしながら振り返って……

「どちら様?」

 シフォンのドレスで愛らしい顔ににっこりと笑みを浮かべた知らない人がいた。

「え⁉︎あ、あー……この格好だもんな。四月一日だよ」
「えええええ!先輩⁉︎」
「今日は来てくれてありがとな」

 そう言って照れて見せるけれど……正直、目の前の人が先輩だなんて信じられなくて、オロオロとしながら「おめでとうございます」ってお祝いを言うしかできない。

「ど、どうしてそんな格好に?」
「いや、俺もよくわからなくて。身内だけって言ってたのにいきなり会場も何もかも変わって、いっぱい人呼ぶって言うからちょっと気合い入れてみたんだけど」
「気合い入れたら別人になれるってすごいですね」
「だろ」

 でもここまで変身しちゃったら、婚約者披露の意味がなくなるんじゃ……?

「でも、スーツだともうお腹が苦しかったから、良かったよ。最近はポコポコ蹴られて辛くって……」
「えっあっおめでたなんですね!おめでとうございますっ!」

 シュンがキラキラって目を輝かせて言うと、先輩はちょっとくすぐったそうに体をすくめてはにかんだ。

「お相手の方は?」
「あ、そこに……」

 先輩は振り返ると軽く手招く。

「まどかさーん!お友達?」

 後ろからひょい と覗き込んできた顔面偏差値の高い男性に、オレは純粋にびっくりしただけだけど、シュンは「オミくんだ‼」って叫んで飛び上がった。
 それから容赦のない力強さでオレをがっくんがっくん揺らすものだから……

 せっかくカッコよくなるように整えてきた髪がばさーって、

 ばささーって……

「オミくんですよね⁉あーっ!この前言ってた番って六華の先輩のことだったんですね!あのっあのっ僕、舞台も見に行ってて、グッズもっあっあのっあのっ  握手してくださいっ!」

 嵐に遭ったみたいなオレのことなんか視界の端にも入れず、シュンはきゃあきゃあと握手をしてもらって喜んでいて……

「大丈夫か?」

 そう言うと先輩はオレの髪をなんとかしようと指で梳いて整えてくれる。

「お相手、売れない役者の卵って言ってなかったです?」
「ああ、うん、そう思ってた」
「あの人、オレでも知ってる人ですよ?」
「そうなんだ」
「仕事以外興味がないの、先輩の悪い癖だと思いますよ」
「うん、ちょっと反省してる」

 そんなだから、五十嵐先輩の熱い視線にも気づかなかったんだよーってのは黙っておくことにした。

「はい!できた!」

 そう言って先輩は満足そうだけど……

「渾身の出来だと思う!」

 ってドヤ顔されるけど……

「リボンはおまけな!」

 恐る恐る手を伸ばしてみると、複雑に編みこまれてアップにされた髪が手に触れて……

「花も似合うと思う!」

 そう言って先輩のお相手が傍のテーブルから花を取って飾るもんだから……

 ええ……

 えー……

「あ あ  あり、が  」

 主役二人に飾り立てて貰ったのを無下にするわけにもいかなくて。
 可愛らしくなったオレを見るシュンの冷たい視線に、ぐっくりと項垂れたい気分だった。




END.
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