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黒鳥の湖
落ち穂拾い的な 奏朝
しおりを挟む僕から言わせると、兄の威臣はひどくロマンチストだ。
どこに出しても恥ずかしくない仕事人間だし、結婚自体も会社のプラスにならなければ とうそぶく割に、兄弟の中で誰よりも運命って奴を信じている。
尊臣がいきなりΩを孕ませて連れてきた時も、金目当てじゃないのか、陥れられただけじゃないのか、何か裏があってのことなんじゃないのか って言ってたくせに、「運命の番だ」って紹介された途端に大人しいトイプードルのようになってしまい、尊大不遜な姿は鳴りを潜めて尊臣の番には何くれと気を遣っているようだった。
だから、そんな兄が叔父たちの口うるささに耐え切れず、後継ぎだけを儲けると言い出した時は碌なことにならないことはわかりきっていた。
ひどく億劫そうにぶつぶつと文句を言いながら向かって行った割には、むっつりと黙り込んで帰ってきて周りを怖がらせていた ……けど、それも僕に言わせると上機嫌な証だと言える。
兄は、上機嫌になりすぎると言葉を失う癖があるからだ。
「……なに?まさか兄さんまで運命に出会ったとか言わないよね?」
つかたる市がバース特区として機能し始めてずいぶんと経つ。
その住みやすさからαやΩが集まったためか、マッチングの精度が上がったためか相性のいい相手……運命の相手……を見つける確率が格段に跳ね上がったと聞く。
だからと言って兄弟四人のうち、二人が運命を見つけるなんてばかばかしい確率だ。
いや、βの僕には関係のない話なんだから三人のうちの二人 か、確率とか言う言葉がばかになっているんじゃなかろうか?
「運命 だと、思う」
こちらを見ず、顔が映り込みそうなほどに磨かれた窓を覗きながらの返事は照れ隠しだ。
現に認めるのがよっぽど恥ずかしかったのか耳まで真っ赤で……
「…………ばからしいって言ってなかったっけ」
渋々と観念した顔でこちらを向く兄は僕が見たことのない表情だった。
時宝の家に迎え入れられて以来、兄のどんな動作も表情も見落とすことなんてあり得ないと思っていたけれど……
兄にこんな顔をさせる相手がいたなんて信じられなかった。
「今もそう思っている」
偉そうにそう返してくるけれど、兄の顔は今にもにやけて崩れそうだ。
「じゃあ、そのうち兄さんジュニアを抱っこできるんだね」
「子供だけではないかもしれんがな」
「え?」
「それより、俺の問題が片付いたら次はお前だぞ」
形のいい指先がぴっと僕を指差すけれど、そんなことはあり得ない。
兄がどうしてもそうしろと言うのならするだろうけど、運命が現れようと兄そっくりの小さな生き物が現れようと、僕の世界には兄しか存在しないって言うのは────変わらないんだから。
END.
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