OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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黒鳥の湖

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「   ────時宝様っ困ります!勝手に進まれてはっ」

 慌てた黒手が後ろから現れ、時宝とオレと蛤貝を見て何が起こったのかわからないために困惑の表情を浮かべて見せた。

「声が聞こえた、だから来た」
「そんなことを仰られても先導もなく行かれるのは   」

 時宝は黒手の言葉を遮るように両手に持っていたジェラルミンケースを放り出すと、どうしてここに時宝がいるのかさっぱりわからないオレの腕を取って引きずり上げた。

「あっ  」
「こい」

 体が震えてうまく力が入らないまま、背の高い時宝に腕を取られると捕らえられた獲物のようで、このまま羽を毟られて肉塊にされるんじゃないかって不安に襲われる。

 よた よた と歩きづらそうにするオレを見下ろして、時宝は険しい顔を更に険しくして足を止めた。

「歩けないのか」
「いえっ 歩けます」
「そうか」

 掴んだ腕は緩む気配はなくて、どこに連れて行かれるのかと項垂れたオレが足元に視線を遣ろうとした時、爪先がふわりと空を蹴ったことに気が付いた。
 逞しい腕が、オレの重さなんて何も感じていないかのように抱き上げて……

「こ、これはっ 」
「話がある」
「はな し  ……は ぃ、承知いたしました」

 鼻先をくすぐるのは時宝の匂いだ。

 雨が降り始める前のような、雨の匂い。

 上着に残されていた褪せた匂いなんかじゃなくて、熱を感じる香りがすぐ傍にある。
 今すぐにでもその胸に顔を埋めて肺いっぱいに吸い込みたい衝動に駆られるけれど、これからされる話の内容を考えると胸の内が凍るようでそんなことはできなかった。

 そろりと見上げた横顔は、歯を食いしばっているのか時折こめかみが動いて、今にも泣きだしてしまいそうなオレとは正反対の顔に見える。

 どんな話をされるのか、尋ねてもいいのだろうか?

 いや、大体の見当はついている。

 今回の入れ替わりに対する謝罪要求か、賠償に関することだろう。でなければ『盤』との契約を終了した時宝がここに来る理由がない。

「  こちらに、すぐにお茶をお持ちします」

 黒手に案内された先の座敷に入ると、時宝はオレを降ろさずにそのまま腰を降ろしてしまった。
 放り出されると思っていたオレは時宝の膝の上に座らされて……

「⁉︎」
「時宝様、那智黒はこちらに座らせますので。那智黒、こちらにいらっしゃい」
「はぃ ────っ」

 急いで膝から降りようとしたのに腰に回された腕は緩むことはなくて、時宝へと振り返って「離してください」と懇願する。



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