OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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黒鳥の湖

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「え  どうして  ?」

 嫌な予感に身を竦めると、そんなオレが面白かったのか薄墨はぷっと噴き出してひらりと手を振って見せた。

「お前の研修にって言ったら馴染みが快諾したんだよ」
「けん  ?」

 オレがいまいち飲み込めないでいるからか、薄墨はイライラとした様子で髪を掻きあげると、部屋の隅に置かれたパイプ椅子を指差して「座れ」と強く言葉を発する。
 その椅子に座ると自然とベッドの方へ向かねばならず……

 向こうの離れほどの広さのないこの部屋では、ベッドと椅子の距離なんてたかが知れていた。

 この距離で?

「  っ」

 思わず薄墨を見て顔を真っ赤にしたオレに、落胆なのか呆れかえったのか、そんな感情を込めた笑いが投げかけられる。

「おぼこいこって」
「そん そんなことない」
「いつまでも向こうと同じ気でいるなよ。考え方改め直せ、あと、後生大事に持ってるあの上着も処分しろ」

 人差し指で胸を突かれて、その痛みにぎゅっと顔をしかめた。

「それは 嫌だ」
「あんなもん持ってるから未練が残るんだ」

 未練……

「それから引き取り手のない腹ん中の子供も堕ろせ」
「っ⁉︎」

 その言葉に嫌だと拒否の言葉を言うよりも先に、体が動いて薄墨から飛び退いていた。狭い部屋では取れる距離なんて知れていたけれど、それでも腹の子に対して悪意を持った人間から少しでも遠ざかりたかった。
 じり と距離を詰めようとする薄墨から逃げるように後ずさるが、あっと言う間に追い詰められて膝裏にベッドが触れた。あっと思った時にはもう遅くて、体勢を立て直そうとする間もなく安っぽいベッドの上に倒れ込む。

 安っぽいとは言ってもあちらの離れで使われていたベッドと比べた場合で、普段オレが使っていた物から比べると良い物ではあるから、倒れ込んだとしても大きな衝撃はなかった。

 けれど……

「  ────ぐっ」

 喉を押さえつけられたような吐き気に抗えず、「ひぃ 」と情けない声を上げて突っ伏する。

 オレを襲った吐き気はあまりにも突然で、その原因がわからずに固まってしまうほどだった。

「ほら、起き上がれよ、でなけりゃいつまで経っても吐くぞ」

 オレのことを慮ってかけた言葉と言うよりは、吐いた際に困ると言うことを考えての言葉に聞こえる。いや、実際そうなんだと思う。

 繰り返しこみ上げる嘔吐感に動けないでいるオレをベッドから引きずり下ろし、冷ややかに見下ろしながら嘲笑の笑みを浮かべてゆったりと腕を組む。

「『それ』が、他のアルファの性的なフェロモンを嗅いだ時の反応だ」
「  っ、でも、  っ首を噛まれたらっ他のアルファには反応しないはずなのに 」
「体の中に入ってくるのは別の話だろ?他のアルファとヤった時の嘔吐感の正体はそれだよ」

 こみ上げる吐き気に耐えながらにじるようにしてベッドから距離を取り、αの匂いの沁みついているその場所から距離を取る。出入り口の辺りまで這いずり、外の空気を肺いっぱいに満たすことができて初めてほっと息を吐くことができた。



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