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黒鳥の湖
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しおりを挟む「 っ、何するんだよ!」
そう怒鳴り声と共に掴みかかられて、喧嘩の経験のないオレは避けるなんて考えが浮かばず、蛤貝の手が突き飛ばしてくる。
息の詰まりそうな衝撃に堪え切れずに壁に倒れ込むと、普段は竹の鳴る音しか響いてこないような屋敷の中にけたたましい音が響いて、ひやりと胸の内が冷えるような静けさが訪れて……
壁にぶつかって蹲っているオレを見下ろして、蛤貝は自分のしてしまったことに対してどうしていいの迷っているように見える。
「 ────っ 何事ですか⁉︎」
飛び込んできた黒手と、その後ろで心配そうに中を覗き込んでいる小石に見つめられて、冷水を浴びせられた気分ではっと姿勢を正す。
何があったのかと問う黒手の視線に、説明しようとしたオレよりも早く蛤貝が声を上げる。
「那智黒が俺に暴力を振るってきたんです!」
は⁉︎ と声をあげたオレを一瞬睨みつけてから、蛤貝は枕がかすった部分を大袈裟に押さえて見せてから、「俺はやめてって言ったのに!物を投げてきて」と憐憫を誘うような泣き声で黒手に訴えかけた。
「っ !」
「俺が時宝様の番だって紹介されて気分よくないのはわかるけど酷いよ!」
「そんなことしていませんっ!それに物を投げてきたのは 」
「ここほら!赤くなってるっ」
オレの言葉を遮るように大声をあげ、さっき自分で押さえつけたせいで赤くなっているふくらはぎを指し示す。
肌の白い蛤貝の足に広がるその赤みは、オレのやってもいない罪を事実のものとするには雄弁で、さっとオレの方を見た小石の視線に思わず怯んで後ずさる。
「ちが それはっ 」
大きな声を上げて説明しようとしたところで、入り口に立つ黒手の後からもう一人の黒手が顔を見せて、窺うような表示をして見せた。
「手がいることですか?」
「この騒動は私が収めます。申し訳ないが、蛤貝を反省部屋に」
「どうして⁉︎被害者は俺なのに、どうして俺が反省部屋に入れられるの⁉︎」
鋭い声で抗議する蛤貝の姿は、本当に心底自分自身に非がないと叫んでいるようだった。
その真剣さに、後から来た黒手がやはり窺うように先にいた黒手を見て……
「那智黒も後で連れて行きますので」
突き放すような強い口調は、その判断を覆すことはないし意見も聞かないと物語るには十分だ。
まだ何か言いたそうな蛤貝だったけれど、さすがに黒手に促されては動かないわけにはいかなかったらしく、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを睨みつけてから部屋を出ていった。
「……物を投げたのはオレじゃなくて蛤貝なんです、オレも投げ返したけど……掠っただけで…………」
消えいるようにしか言葉が出なくて、これでは後ろ暗いことを隠しているようだと自分自身で感じる。
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