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黒鳥の湖
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しおりを挟む「たの しんで なんて 」
「ではなぜこんな馬鹿げたことをしたんだっ!」
今にも殴り掛かられてもおかしくないほどの剣幕に押されて、言い募る言葉を持たないオレは抱き締めてくれる黒手の腕の力強さに励まされるようにして震える言葉を何とか紡いだ。
「 貴男に 触れたかった、から」
震えでガチ と歯が鳴り、言葉尻はそれにかき消されてしまうようで、自分自身の耳にも満足に聞こえなかった。
「貴男のことが、 恋し かった、から 」
息を詰めて堪えるも、どうしても堰き止められなかった嗚咽に肩が跳ねて膝の力が抜けてしまった。黒手が支えてくれていたために床に勢いよく倒れ込むなんてことはなかったけれど、息を吸い込む度にひぃ と喉の奥が悲鳴のような音を立てるのが静まり返った室内に大きく響くのを感じた。
うずくまるようにしてベッドの端に座るオレにスーツのジャケットを投げつけ、蛤貝が怒りを隠そうともしない目でオレを見下ろす。
「なんでバラしたの⁉︎」
パーティー会場の臭いを移したその上着を叩き落し、何も話したくないと言う意思表示を込めてぐっと唇を引き結ぶ。それが蛤貝の機嫌を損ねることになるのは承知だったけれど、今は自分の気持ちを押してまでご機嫌をとることができるような気分ではなかった。
「折角うまくいってたのに!」
時宝に番と紹介されてご機嫌だったのに急に『盤』に連れ戻されたせいで、蛤貝の機嫌は今まで見たことがないほど荒ぶっている。
隠す気も抑える気もない感情を鼻白んだ気分で眺めて、膝を引き寄せた。
「……うまくいくわけなかったんだ」
バン と枕を投げつける音のうるささに耐えきれずにそう言うと、蛤貝の怒りのぶつけ先がこちらに向く気配がして、身をかわそうとする前に強い衝撃が顔に当たって思わず小さな悲鳴が漏れる。
顔に当たって胸元に落ちてくる枕を掴んで、とっさの動作で勢いよくそれを振り被って蛤貝に向かって投げつけた。
『盤』では、商品である体に傷をつけないために手の出るような喧嘩はご法度で、ちょっかいを出されてこうやって反撃したのは初めてのことで……
それでも、何かを投げる なんてしたことのなかったせいか、オレの投げた枕は大きく逸れて蛤貝の足を掠って落ちてしまう。
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