OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
703 / 801
黒鳥の湖

73

しおりを挟む



「たの しんで なんて   」
「ではなぜこんな馬鹿げたことをしたんだっ!」

 今にも殴り掛かられてもおかしくないほどの剣幕に押されて、言い募る言葉を持たないオレは抱き締めてくれる黒手の腕の力強さに励まされるようにして震える言葉を何とか紡いだ。

「   貴男に 触れたかった、から」

 震えでガチ と歯が鳴り、言葉尻はそれにかき消されてしまうようで、自分自身の耳にも満足に聞こえなかった。


「貴男のことが、 恋し かった、から 」


 息を詰めて堪えるも、どうしても堰き止められなかった嗚咽に肩が跳ねて膝の力が抜けてしまった。黒手が支えてくれていたために床に勢いよく倒れ込むなんてことはなかったけれど、息を吸い込む度にひぃ と喉の奥が悲鳴のような音を立てるのが静まり返った室内に大きく響くのを感じた。




 うずくまるようにしてベッドの端に座るオレにスーツのジャケットを投げつけ、蛤貝が怒りを隠そうともしない目でオレを見下ろす。

「なんでバラしたの⁉︎」

 パーティー会場の臭いを移したその上着を叩き落し、何も話したくないと言う意思表示を込めてぐっと唇を引き結ぶ。それが蛤貝の機嫌を損ねることになるのは承知だったけれど、今は自分の気持ちを押してまでご機嫌をとることができるような気分ではなかった。

「折角うまくいってたのに!」

 時宝に番と紹介されてご機嫌だったのに急に『盤』に連れ戻されたせいで、蛤貝の機嫌は今まで見たことがないほど荒ぶっている。
 隠す気も抑える気もない感情を鼻白んだ気分で眺めて、膝を引き寄せた。

「……うまくいくわけなかったんだ」

 バン と枕を投げつける音のうるささに耐えきれずにそう言うと、蛤貝の怒りのぶつけ先がこちらに向く気配がして、身をかわそうとする前に強い衝撃が顔に当たって思わず小さな悲鳴が漏れる。
 顔に当たって胸元に落ちてくる枕を掴んで、とっさの動作で勢いよくそれを振り被って蛤貝に向かって投げつけた。

 『盤』では、商品である体に傷をつけないために手の出るような喧嘩はご法度で、ちょっかいを出されてこうやって反撃したのは初めてのことで……

 それでも、何かを投げる なんてしたことのなかったせいか、オレの投げた枕は大きく逸れて蛤貝の足を掠って落ちてしまう。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...