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黒鳥の湖
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しおりを挟む黒手が控えているホテルの一室に乱暴に押し込まれた時、オレの乱れた服と顔色を見て黒手の顔色がさっと青くなった。けれどオレの首のガードが外されているのを見て、すべてを悟ったのか何かを言いかけた口を閉ざして引き結ぶ。
びり と時宝から放たれる怒りの空気に押されるように、よろりと黒手の方へと倒れ込む。
「俺が何を言いたいかわかるな?」
「はい。おっしゃりたいことは……重々に 」
そう言うと黒手は着ていたジャケットを脱いでオレに被せると、時宝から庇うようにぎゅっと抱き締めてくれた。
「どう言うことか説明を求めるべきか?それとも、契約の破棄を言い出すべきか?」
「それはっ ……」
「俺が安易な気持ちでそちらを利用したのではないことはわかっているだろう?」
オレを抱きしめる手に力が篭っていく。
「それは勿論。承知でございます」
「契約を反故にし、契約相手は他と番、俺にはまったく別のオメガを当てがった。それを訂正もせずに放置どころか結託してそれを隠蔽か?」
じり じり と言葉の語尾に含まれる熱量が上がっていくのが恐ろしくて……
普段、普通に会話していてもきつい口調が見え隠れするのに、それの比ではなかった。
αの怒りに晒されて、オレを庇うようにして立っている黒手はどれほど恐ろしいか。
「慇懃に振る舞い、人に腐るほどの条件を突きつけるくせに自分達は契約の欠片も守らんとはな」
は と鼻で笑われて身体中が震え出す。
「信用できるから と紹介されたがなんてことはない!ただただ人を騙くらかして食い物にするタチの悪い集団じゃないか!」
「違います!」
「何が違う!」
ビリ と体を震わせるような怒声に、黒手もびくりと体を震わせる。
「 っ ち 」
αの怒りの気配に体中が総毛立ち、黒手が支えてくれていなければ崩れ落ちてしまっていただろう。オレを庇う腕に縋りながら、時宝に向けて首を振った。
「ちが 、っ も でも、 」
「気付かない俺は滑稽だったか?」
「 っ いいえっ!」
堪えようと思っていたのに時宝を映す視界が歪んで、熱いものが目の縁に溢れて零れ出す。
「っ 俺を笑うのは楽しかったか!」
ぱた と涙が床を打つ音が大きく聞こえ、それを追いかけるように気づいた時には嗚咽が漏れていた。
オレ自身の自分勝手な気持ちで蛤貝たちと共に時宝を騙したオレに泣く権利なんてないのに、時宝に憎々し気に睨まれているのだと思うとそれだけで悲しくて、胸が押し潰されそうで……
泣き顔を見せるのは哀れみを乞うているように思われたくなくて、ぐっと唇を引き結んで顔を伏せる。
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