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黒鳥の湖
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しおりを挟むちらり と後ろを振り返ってみれば、時宝と何か話しながら不安そうにこちらを見ている黒手と、オレがいなくなっても意に介してもいない蛤貝が見えて、ぽつんと切り離された心細さにぐっと拳を作った。
「今回のパーティー、ちょっと大所帯になってしまったんだけど、挨拶するのは主役の尊臣とせいぜい兄さんだけだから、僕らは隅っこで美味しいものでも食べてようか」
「はい、お心遣いありがとうございます」
「それと 君のお客さんがー……旦那様って言うんだっけ?その人がいたら教えて欲しいんだ」
ひく と体が跳ねて足が止まってしまったオレに付き合うように奏朝も足を止め、「ね?」と念を押してくる。
「家業のことは聞いているよ、だから君のお客さんとかち合って誤解させてしまうとまずいでしょう?兄の勝手で招待したのにトラブルになったら申し訳ないし。そうならないように僕の方からちゃんと説明しないといけないからね」
「承知いたしました」
ずいぶんと細やかに気を使ってくれるのだと有難く思うものの、オレの旦那様が現れないことはオレ自身が良くわかっている。無駄な気を使わせるのも悪い気がしたけれど、説明することもできないので「ありがとうございます」と感謝の言葉を口にした。
「君たちはいつもそんな話し方なのかな?」
「はい。お客様ですので」
そう言うと時宝とよく似た目元を細めてひょい と覗き込んでくる。
「僕は客じゃないよ?」
「けれど、旦那様のお身内ですから」
そう言って言葉を崩すことはできないと遠回しに言ったつもりだったけれど、奏朝は引く気がないようでじっとオレの瞳を見つめて動かなかった。
時宝のように力強くはないけれど、透明感のある美しい両目だ。
「じゃあ ちょっと、だけ。他の人に聞かれない時だけなら」
「よろしく!」
心の奥底まで見透かすかのような目に見つめ続けられると、どうにも居心地が悪くて、その視線から避けるために仕方なく頷いた。
きらびやかな照明と、きらびやかな装飾と、きらびやかな人々と……
小さな と言う言葉がどこまでを指すのか、今までの考えを改めなければならないのかもしれないと思いながら、大勢の人の視線を避けて壁の花に徹しようと隅の方へと逃げ込む。
奏朝は一緒に隅にいればいい と言ってはくれてはくれていたけれど、仕事関係でどうしても挨拶しなければならない相手が来たそうで、ごめん と言い残して離れていった。
慣れない外の世界で一人、いや、独り残されて、心細いと言うよりは一人だけ深い泥の世界に沈んでしまったかのような気分がしてしまう。
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