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黒鳥の湖
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しおりを挟む普段ならそんなことになる前にオレが折れるんだけど、どうしてだかそれが出来なくて大きな声を出してはいけないって言われているのに、大声で言い返してしまった。
それであわや……と言う事態にまで発展して……
「なんで関係のない那智黒までついてくるの⁉︎でしゃばり!」
「先黒手様が許可されたんだから!オレに言われてもどうにもならないよ!」
「俺の旦那様に何を言ったの⁉︎」
「何も言ってないよっ」
「やめなさいっ!何をしているんですか。もうじき時宝様もいらっしゃると言うのに」
割り込んだ黒手はそう言うとオレ達二人を見比べてふぅと溜息を零す。
「蛤貝は旦那様を持ったのだから石や小石達の手本になるように」
「 はい」
「那智黒は 」
そこで言葉を区切り、黒手は戸惑いを見せた。
時宝が蛤貝の旦那様なのは揺るがない事実だけれど、その時宝と番ったのは蛤貝ではなくオレだ。蛤貝には手本になるようにと言うことは簡単でも、オレに対してはどう言っていいのか、さすがの黒手も扱いに困っているんだろう。
「 貴男は、しっかり補助に徹するように」
それは、飽く迄も時宝は蛤貝の旦那様なのだと言い聞かせているようで……
押さえ込め切れない怒りに流されそうになりながらも、なんとか「はい」とだけ返事を返す。ぐっと唇を引き結んだオレの表情を見て、黒手はやはり戸惑いを覚えたようでもう一度溜息を吐いた。
「貴男も所作に荒さが見えます、この間も貧血を起こしたのだから、津布楽先生に一度診てもらいなさい」
「はい。今日明日は忙しないので、明後日にでも診ていただきます」
それでも、黒手の言葉はオレを心配してくれてのことだと思うから、素直に頷くことはやぶさかではなかった。
屋敷の入り口で出迎えたオレを見た瞬間、時宝ははっとして視線を逸らそうとしたのを堪えたようだった。
挑むように頑固そうな口元を引き締めながらこちらに来ると、深く頭を下げて出迎えの口上を述べるオレに「大丈夫だったか」と訊ねてくる。
さすがに今日の開口一番が「蛤貝は?」ではなかったことに、胸の奥からほっと溜息が出るようだった。
「先日は大変失礼いたしました。そして私が無作法をいたしましたのに、結構な品を頂きましてありがとうございます」
「いや……俺が乱暴したからだろう。怖い思いをさせてすまなかった」
素直にすまなかったと言う言葉が聞けると思っていなかったせいか、ひく と言葉が喉に詰まる。
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