OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
688 / 801
黒鳥の湖

58

しおりを挟む



 普段ならそんなことになる前にオレが折れるんだけど、どうしてだかそれが出来なくて大きな声を出してはいけないって言われているのに、大声で言い返してしまった。

 それであわや……と言う事態にまで発展して……

「なんで関係のない那智黒までついてくるの⁉︎でしゃばり!」
「先黒手様が許可されたんだから!オレに言われてもどうにもならないよ!」
「俺の旦那様に何を言ったの⁉︎」
「何も言ってないよっ」
「やめなさいっ!何をしているんですか。もうじき時宝様もいらっしゃると言うのに」

 割り込んだ黒手はそう言うとオレ達二人を見比べてふぅと溜息を零す。

「蛤貝は旦那様を持ったのだから石や小石達の手本になるように」
「   はい」
「那智黒は   」

 そこで言葉を区切り、黒手は戸惑いを見せた。

 時宝が蛤貝の旦那様なのは揺るがない事実だけれど、その時宝と番ったのは蛤貝ではなくオレだ。蛤貝には手本になるようにと言うことは簡単でも、オレに対してはどう言っていいのか、さすがの黒手も扱いに困っているんだろう。

「  貴男は、しっかり補助に徹するように」

 それは、飽く迄も時宝は蛤貝の旦那様なのだと言い聞かせているようで……

 押さえ込め切れない怒りに流されそうになりながらも、なんとか「はい」とだけ返事を返す。ぐっと唇を引き結んだオレの表情を見て、黒手はやはり戸惑いを覚えたようでもう一度溜息を吐いた。

「貴男も所作に荒さが見えます、この間も貧血を起こしたのだから、津布楽先生に一度診てもらいなさい」
「はい。今日明日は忙しないので、明後日にでも診ていただきます」

 それでも、黒手の言葉はオレを心配してくれてのことだと思うから、素直に頷くことはやぶさかではなかった。



 屋敷の入り口で出迎えたオレを見た瞬間、時宝ははっとして視線を逸らそうとしたのを堪えたようだった。

 挑むように頑固そうな口元を引き締めながらこちらに来ると、深く頭を下げて出迎えの口上を述べるオレに「大丈夫だったか」と訊ねてくる。
 さすがに今日の開口一番が「蛤貝は?」ではなかったことに、胸の奥からほっと溜息が出るようだった。

「先日は大変失礼いたしました。そして私が無作法をいたしましたのに、結構な品を頂きましてありがとうございます」
「いや……俺が乱暴したからだろう。怖い思いをさせてすまなかった」

 素直にすまなかったと言う言葉が聞けると思っていなかったせいか、ひく と言葉が喉に詰まる。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...