OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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黒鳥の湖

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「  では、先黒手の決定の通りに過ごすように」

 黒手自身も腑に落ちていないのははっきりと分かったけれど、それでも先黒手に逆らうことはできないんだろう。


 ────時宝様にはこのまま那智黒を蛤貝として過ごして頂きましょう


 まるで悪戯を思いついた子供のように、手をぱちんと叩きながら無邪気に告げられた言葉が信じられず、問い返そうとする前に黒手が「どう言うことですか!」と大きな声を上げて尋ね返してくれた。
 黒手の大声ですら嘲笑で返し、先黒手達は「時宝家とは問題を起こしたくないのよ」と心底困ってしまった と言う風な声を出す。


 ────幸い二人は兄弟だし
 ────時宝様も引き取りは考えていらっしゃらないようだし
 ────二人ほど産めば気もお済になるでしょう


 ころころ と続く笑いを怒鳴り声で遮りたかったけれど、黒手に首を振られて止められて……

 オレは何も言えなかった。

 ……時宝の番はオレなのに…………


「蛤貝、明日に時宝様の訪問の予定が入っています。お待たせなどしないよう、準備はしっかりと整えておきなさい」

 黒手の言葉にはっとすると、蛤貝は不服そうに唇を少し尖らし、「神田様ではないの?」と拗ねたように問いかける。

「神田様から、ご連絡は頂いてはおりません」

 外の金銭の感覚がどれほどのものなのか、ここでしか生活したことのないオレには基準はわからなかったけれど、蛤貝の身請け代は若い男がそう易々と用意できる金額に設定されているわけではないことは知っているつもりだ。

 今頃、その工面をされているに違いない。

 こちらに足を運ぶ間があれば東奔西走しなければならないんだろう。

「  やっぱり、もっとお金持ってる人が良かったかなぁ」

 ぽつん と呟かれた言葉に、腹の底から怒りが湧いて……

 共にここで長く暮らしてきて、むっとするようなこともあったけれどそれでも喧嘩もせずに仲良くやってきたと思っていた。だから、蛤貝の胸倉を掴む なんて初めてで、オレの行動を見て黒手が目を丸くしたのなんて初めての事かもしれなかった。

「  っ神田様はっ 蛤貝のためにっ  無茶な要求にも応じられて、今だって、身請け代を用意されているはずなのにっなんっ なんでそんな勝手なことっ  」
「やめてよっ傷がつくでしょ!」

 思いの外強い力で振り払われて、よた と倒れそうになって何とか踏みとどまる。

「俺のため?当然でしょ、俺が番に選んであげたんだから。俺をもっと満足させてくれないと!」
「まん  ?」
「神田様にはちょっとがっかりしてるんだよね、時宝様みたいに新枕の後に何も贈り物もなかったし」
「そん なの、贈るきまりがあるわけじゃなし  」
「だから、そう言う心遣いがなくて不満なのっ!その点、時宝様は気が利くよね!今朝も優しかったし、ゆっくり休めってさ。俺の体のこと心配してくれて!神田様とは大違  っ」




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