OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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黒鳥の湖

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「今までのように過ごせるとは、決して思ってはいけません」

 純潔も、番の契約も、オレの価値を高めていた物を投げ打った結果オレに残されたものは何もない。
 ましてや、蛤貝は神田様に身請けされると言うのだから、相方であるオレの価値は無くなったも同然だった。

 わかっていたこととは言え、オレは項垂れることしかできなかった。




 時宝とのことを衝動的に行動したのか……と問われれば、オレは言葉に詰まったと思う。

 勢いがなかったかと言われれば否で、けれど冷静だったかと言われればそれはそれで否だったからだ。
 時宝に抱かれるチャンスがあると知って、熱に浮かされたような、ふわふわとした……そう、浮足立つような現実感のない状況でそれに縋れるならすべてはいらない と、願ってしまった。

 願ってしまうほど、オレは時宝のことが……





「  ────見て!コレ!」

 自分の部屋に戻るなり目の前に広げられた白く柔らかな光沢を放つシャツに、身が竦んで後ろの黒手にぶつかるようによろけてしまう。黒手が肩を支えてくれなければ、オレはそのまま転んでしまっていたかもしれない。

「ほら、きれーぃ!」

 しおらしく泣いていた姿なんか欠片も見せずに、蛤貝は嬉しそうに上品な刺繍の入ったシャツを嬉し気に光に透かして見ては、機嫌よさげにしている。

「随分と、ご機嫌ですね」
「えっあっ  」

 オレの後ろに黒手がいたのを見て、蛤貝は慌てて居住まいを正して神妙そうな顔をして見せた。

「それは?」
「これは、時宝様がくださいました」

 ぐっとオレの肩に置かれた黒手の手に力が籠った。

「新枕の記念に って」

 オレを見て……と言うよりは、オレの後ろを見て神妙そうな顔を作っている。
 神田様が迎えに来るまでだから と、オレに縋った時の姿からは想像もできない変わりように、蛤貝の顔をした違う誰かなんじゃないかって、ざわりと胸の内が騒ぐ。

 そんな青い顔のオレを見てバツが悪そうにしたのも一瞬で、すぐに手の中のシャツに視線をやって嬉しそうに撫でている。

「蛤貝、那智黒の服を整えてください。先黒手達がお呼びです」

 黒手がそう言うと、蛤貝は一瞬で夢から醒めたかのような険しい顔つきになって、拗ねたように唇を突き出した。


 白手達を纏め、世話をする黒手達を更にまとめる役割として、この『盤』での頂点に立つのが先黒手達だった。
 普段、白手のいるこちらに顔を見せることなく、主にここの運営などをしているとふんわりとした部分を聞いたことがあるけれど、それくらいしか聞いたことがなかったし、聞くものだとも思わない、そんな存在だ。

「  ────那智黒、蛤貝、両名参りました」

 いつも硬い口調である黒手の声が更に硬いものだと言うのは、オレの勘違いではないと思う。




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