OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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黒鳥の湖

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「はい、いいよ、服を戻して。今日はこのままゆっくり休むのかな?」
「いえ、このあと訪問の予定が入っています」

 そう言うと津布楽先生は「ん?」と訝しむように眉間に皺を寄せた。

「もう明日は新枕だろう?」
「どうしてもと……」

 黒手も正直迷ったらしいけれど、時宝ほどではないにしても神田様もそれなりの方からの紹介でこちらに来た人だ。お目当ての蛤貝が時宝と先に契約を結んでしまったとは言え、身請けすると言うわけではないのであれば会いに来るのを止めることは難しい。

 『盤』としては、時宝との契約終了後を見越して繋いでおきたい相手でもあるのだろう。

「とりあえず今のところ問題はないが、予定日は明日だからな、気を付けろよ」

 そう言うと津布楽先生はガリガリと髪が伸び放題になっている頭を書き、何事かをカルテに書き付けて伸びをした。

「蛤貝、着物を直すよ。……蛤貝?」

 そう声をかけても椅子から立ち上がらない蛤貝の肩を叩くと、びくんと勢いよく飛び跳ねるから逆にこちらがびっくりするくらいだった。




 座敷で蛤貝が神田様をもてなしている間、オレは明日の準備の最終確認をしなくてはならない。

 枕元のミネラルウォーターのペットボトルの数、口にできるかは疑わしいけれど機能性栄養補助食、それから離れに沿うように作られた見張り用の個室の備品もチェックする。

 離れに二人が籠れば蛤貝の発情期が治まるまでは、何か特別なことが怒らない限り立ち入ることができない。それが何時間、何日になるのかはまだわからないけれど、蛤貝の発情が治まって二人に理性が戻るまでオレはここで控え続けなければならない。

「…………」

 ぐっと、言葉に出来ない何かを飲み込む。

 それはこんな場所に産まれたことを恨む言葉だったかもしれないし、
 蛤貝を選んだ時宝に対する恨み言だったかもしれない、

 もしくは、こんな状況になってもそれでも反抗して時宝に気持ちの一つも打ち明けることができない自分の不甲斐なさを呪った言葉だったかもしれなかった。

 時宝が、蛤貝を抱かなければいいのに……

 そんなどうしようもないことを思うせいか、備品をチェックする手は止まりがちで作業は遅々として進まない。

「  ────なちぐろにぃさん」

 開け放った扉の所から声をかけられて飛び上がる。




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