OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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黒鳥の湖

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「お前が緊張してどうする」
「だって、微力ですが私もお手伝いをいたしますので、何か粗相などしてしまっては……」
「別に些細なことをあげつらう気はない。乱入してくるわけではないのだろう?」
「そ  っんなことはいたしませんっ」
「気負わずいつも通りすればいい、俺はお前のもてなしに満足している」

 長い指先が髪の中に潜り込むと、サラサラとした感触を楽しむように指の間から零す。

 αらしい高慢ちきな嫌な奴だと思っていたけれど、小石達からは訪れを聞かれるほど評判もいいし、こうやって触れてくる手つきは優しい。

 神田様のようにわかりやすい優しさではないし、ちやほやしてくれるわけではないけれど……

 傍にいて、安心する。

「はい、精一杯務めさせてもらいます」

 そう言うオレの頭をもう一度撫で、犬を撫でている気分なのか耳をくすぐるようにしてから手を離す。

「さて、せっかく準備をしているのだろうが、時間切れだ」

 離れていく手に名残惜しさを感じながら首を傾げると、時宝は腕時計をとんとん と叩いて見せる。すると手首に付けられた鈴がチリチリと鳴るのを聞いて、はっと飛び跳ねた。

「申し訳ございませんっ蛤貝は その、準備に熱が入るあまり……時宝様に美しく装った姿を見て欲しくて……っ」

 蛤貝に会いに来たのに、肝心の蛤貝は座敷に来るどころか挨拶に来ることもなかった、これじゃあ時宝が何のためにここに来たのかわからない。
 もっと早くに気づいてオレが蛤貝を急かさなければならなかったのに……

「いや、ゆっくり時間を取ることのできなかった俺の落ち度だろう」
「でもっ」
「少し仕事を詰めることになった、次に訪れることができるのは当日だろう、蛤貝にそう伝えてくれ」

 くっと息が詰まるような感覚に気づかないふりをして、「はい」と従順に頷いて見せる。

 次に時宝に会える日は蛤貝と子作りのための日だと改めて告げられて、飲み下しきれない言葉が喉に詰まるようだった。





 雨の日の『盤』は騒がしい。

 雨が竹の葉に当たって、その音が観客の拍手のような、もしくは雑踏のような音を響き渡らせるせいだ。
 でも、それが過ぎると竹の青さが透き通るような深い色になって、騒がしい音とは対極にしっとりと落ち着いた色彩で、それをぼんやりと眺めるのが楽しみだった。

「  ────で、大丈夫ですか?」
「っ はい」

 た た と軒先から落ちる雫に気を取られていたせいか、黒手の問いかけに答えるのが一瞬遅れる。

 その一瞬で、黒手に話を聞いていなかったことがばれてしまったようで、睨まれて小さく肩を竦めた。




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