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黒鳥の湖
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しおりを挟む「お前らなんのために生きてんの?」
「なん なんのって……」
「股開いて腹の奥に子種汁ぶちまけさせて孕むためにここに居るんだろうが」
そう言うと薄墨はきゅっと床に落ちた精液を爪先で拭うように踏みつける。
「どんな御綺麗事言ったってな、俺とヤること変わんねぇんだよ」
鼻をつく精液の臭いと、滴る汗の臭いと……
「子供産むためだけに生かされてるくせに、甘っちょろいこと言ってんなよ」
吐き捨てるように言うと薄墨はぷいと踵を翻してすたすたと行ってしまった。
その後姿が廊下を曲がって見えなくなるまで見送って、蛤貝は涙目のままぎゅっと唇を噛んで俯いてしまう。
「……蛤貝、唇に傷が出来ちゃうよ?」
ぶるぶると震える拳は怒りからなのか……
「ヒートが近いからナーバスになってるだけだよ、リラックスできるようにマッサージしてあげるから、ね?足湯を用意しようか?」
「 っ────もういいっ!イライラするから出てってっ!」
弾かれたように顔を上げた蛤貝は何のためらいもなくオレを突き飛ばし、廊下へと押し出すとピシャリと甲高い音を立てて部屋の戸を閉めてしまった。
オレ達の部屋に鍵はついていないから中に入ることは簡単だったけれど、「替われ」と言われた言葉のせいで心がざわざわと落ち着かず、冷静に蛤貝を宥めることができそうになかったから、その言葉を素直に飲み込んでその場を立ち去ることにした。
入れ替わることができたら なんて、夢を見ないわけではない。
蛤貝の、時宝の子供を何人か産む姿を傍で見てサポートしなきゃならないってことを考えると、どうにも気が塞ぐのを止められない。
時宝と蛤貝の子供ならば文句なしに可愛いのだろうけれど、オレはその子を見守らなければならない。
Ωが産まれたら?
時宝と蛤貝の子供と、なんのマイナスの感情も込めずに共に暮らすことができるだろうか?
「……っ」
目の前で急に手を振られ、自分で思う以上に大袈裟に飛び上がってしまったようだった。
「何、よそ事を考えている」
「あっ の、申し訳ございませんっ……もうすぐ蛤貝の新枕の日だと思うと落ち着かなくて」
慌てて誤魔化し、時宝の前でぼんやりしてしまっていたことが申し訳なくて項垂れる。
「そうか、もうそんな時期か」
足繁く通っていると言うのに、時宝の返事は何とも素っ気ないものだ。
持ち詫びていたりはしないのだろうか と怪訝な顔をしていたのに気づかれたのか、大きな手が伸びて頭をぽんぽんと撫でてくる。
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