OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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黒鳥の湖

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 名残惜し気に蛤貝の匂いの入った小瓶を掴んでいた時宝の姿が過る。

 ────もし、瓶が入れ替わっていたら?

「さぁ、もう部屋に帰りなさい。もう気にするんじゃないよ、泣いて目の周りを擦るのも駄目だ」
「  あい」

 オレの様子のおかしさを、小石は勘づいていたのかもしれない。
 でも空気を読んだのか気を使わせてしまったのか、大人しく頷いて深く頭を下げて歩いて行ってしまった。


 蓋の開いた瓶を手に取ってその中の匂いを嗅いでみる、αはこれで匂いがわかるらしいけど、Ωのオレにはなんとなく何かの匂いがある気がするだけで、それがオレの匂いなのか蛤貝の匂いなのかは判別できない。
 もうすでに時宝は蛤貝を選んだし、時宝と『盤』の契約は交わされたのだから、判別できたとしても、だからどうだと言うだけの話なのだけれど……

 もし、瓶が入れ替わっていたとしてももうどうにもならないことだし、例え時宝が嗅いだ匂いがオレの物で、あの反応がオレの匂いに対して現れた物だとしても、「華やかだ」と評された蛤貝にオレが敵うはずもない。

「似ているはずなのに な  」

 どちらがどちらの物なのかわからない小瓶を眺めて、どうしようもないやるせなさに肩を落とすしかなかった。



 子を成すことは、ただの作業ではない。

 故に旦那様となった方々には発情期以外にも『盤』へ足を運んでいただき、母体として選んでいただいた白手との交流をお願いしている。

 もちろん、忙しい を理由に白手の発情期以外は訪れないαも多い。

 だから、時間をかけ過ぎだ と怒る時宝がここに訪れるのは蛤貝の発情期だけだと思っていた。

「 ────なんだ、不服そうな顔だな」

 前にいる黒手が深く頭を上げたせいで、その後ろにいたオレは時宝から丸見えで……頭を下げるタイミングを間違ってしまったのもあってばっちりと目が合ってしまった。

「いえ、またお会いできたこと、嬉しく思います」

 そう言って慌てて頭を下げたけれど、深く頭を下げたままの黒手の怒りの波動を感じてしまって、ぞわぞわとした物が背筋を撫でるような感覚がする。
 後で怒られるのかなぁ とぼやきそうになるのをぐっと堪えながら、支度をしている蛤貝の代わりに時宝をもてなすために座敷へと案内するために先導した。

「蛤貝は?」
「ただいま支度をしております、もう暫くお待ちいただきますので、その間は那智黒がお相手させていただきます」

 来る時間を告げていたのに用意も出来ていないのか と怒られるかと思って、ちらりと様子を窺ってみるが別段そのことに気を留めた様子はなくて、オレは怒られなかったことにほっと胸を撫で下ろす。

 青い畳と日の入る障子と……

 脇息に身を預けて一息吐く時宝はこう言った状況にもひどく手慣れているようにも見える。



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