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黒鳥の湖
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しおりを挟む「 相変わらず那智黒は面倒見がいいなぁ。走って怒られるのはあの子なのに」
「そんなことになったら可哀想だろ」
「だって、そうしないと覚えないでしょ?」
違う?と念押しされるが首を振って返した。
自分の考えが正しいのになんで⁉︎って顔をされたけど、まだまだ小さい子供なんだから怒られないに越したことはない。
「ほら、おしゃべりはお終い。客間に行こう」
不服そうに頬を膨らませている蛤貝の手を取り、長く続く廊下を見る。
向こうにあるのは、お客様がオレ達を品定めするための座敷がある方向だった。
長い廊下の片側に竹林が、片方には客間へ続く障子がある。それを横目で見ながら自分達専用の出入り口まで行くと、呼ばれるまではそこで待機だ。
気持ちを落ち着かせるために深呼吸していると、障子を隔てた向こうから黒手と時宝の会話が聞こえてくる。
「 こちらは、安産多産を約束されました私達一族が、皆様の繁栄に微力ながらご助力させていただくための場でございます」
黒手の説明を何度も聞いたけれど、安産多産が約束された血筋のΩって言うのはオレ達一族以外には居ないらしくて、産んで一人か多くて二人、そして大半が命を落とすリスクがあるために産まないって選択をするらしい。
「時宝様のご希望はアルファのお子様と言うことでよろしいですか?」
「ああ、他に何がある」
「番として召される方もいらっしゃるもので」
「そう言う、煩わしいことを言わないのがここの利点だと聞いたが?」
その言葉を聞いて、きゅうっと胃が縮まる気がした。
「左様でございます、では準備が整ったようですので。お入り」
その言葉が合図で、オレと蛤貝は静々と入り口から中へと入ると、客間に焚き染められている白檀の匂いが一際きつく香って、なぜだか緊張で膝が笑いそうになる。
なんとか倒れないように踏ん張りながら、出来るだけ涼しい顔をしていつも通りの位置にある厚みのある深い金色の座布団に腰を降ろす。正面にあるのは座敷とこちらを隔てる赤い格子と、それから黒手、その奥に脇息に気怠けに体重を預けている時宝が見えた。
「挨拶を」
それに従って、二人で息をぴたりと揃えて頭を下げる。
頭の天辺に時宝の視線を感じて、三角を形作る両手から視線を引き離すのがとても難しく感じた。
品定めされる、そんな視線には幾ら晒されても慣れなくて、時宝との出会いが衝撃的だったせいか妙に胸の鼓動が早い気がする。
「黒い着物が那智黒、白い着物が蛤貝と申します」
紹介が終わってしまうと顔を上げないわけにはいかなくて、しぶしぶ顔を上げて前を向く。
「 っ」
射すくめられるような眼差しは、品定めのために仕方ないと分かっていても、肌の上を這う度にざわざわとした奇妙は落ち着きのなさを与えてきて、それが恥ずかしくなってそっと視線を下げた。
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