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黒鳥の湖
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しおりを挟むざらざらとした手が尻たぶを引っ張る感触に「ひぃ」と上がりそうになった声を辛うじて飲み込むも……
恥ずかしさで顔が上げられない。
「皺も乱れがないし、赤くもなってない。問題ないだろう」
何度もそう言っているのに信じて貰えないのは、怒り出したくなるほどだったけれどそれがここのルールで、この『盤』の在り方を考えると万に一つの何かがあってはならない。
だってここは、Ωにαの子供を孕ませる ただそれだけの為にある場所なんだから。
昔からまことしやかに囁かれ続けているΩに関しての噂がある。
それはΩを介せば親のαの優れた能力をそのまま引き継ぐ と言うものだ。
いつから言われているのか とか、医学的根拠は とか言われてしまうとどうも眉唾な話らしいのだけれど、公になっていない事実として上流のα達の中では普通にまかり通っている説だった。
そして、ここ『盤』は産むのに向いていないと言われる男型Ωですら、安産多産を約束された血筋のΩ達の暮らす場所で……つまり、ここには、Ωに自分の子を産ませたいαがやってくると言う場所だ。
α同士で結婚をしたが子供はΩに産ませたい夫婦や、男型Ωをパートナーにしているが出産のリスクを考えて子供を諦めた夫婦、若しくはΩが産んだαの子供だけが欲しい人などがやってくる。
オレ達白手は、そんなα達に抱かれて子供を産む為に存在している……
「じゃあ準備行こっか」
そう蛤貝に手を引かれて目を白黒させていると、
「あ、そっか。那智黒は時宝様のこと聞いてないんだっけ?」
と、悪戯っ子のようなキラキラした目でオレを見てくる。
「神田様をお見送りに行ってたもんね、ご紹介で急遽来られることになったんだって」
「急に?」
おかしい とは思ってはいた。
ここは完全予約制で、ましてや余程のことがない限り客のやってくる日が重なることはない。それに予約制だけあって事前に『盤』に居る皆には客の情報が通達され、準備が徹底されるはずだったから。
「ここに捻じ込めるってよっぽどのコネがあるってことだよね⁉︎」
キラキラっと嬉しそうに屈託なく笑われると、だからどうしたと思っている自分が悪く思えてきて、曖昧に「うん」とだけ返した。
蛤貝は、ここを出て行きたいらしい……
子供を産む為の存在と言っても、お客様が気に入って結婚したり、専属でその人の子供だけを産ませたい人が引き取ったり、そう言うことがあるとオレ達でもここを出て行く可能性はあったりする。
もちろん、引き抜きにはそれなりのお金が必要で、それを出せるのはほんの一握りだ、だから蛤貝はそう言う人達に敏感なわけだけど。
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