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黒鳥の湖
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しおりを挟む本来、屋敷に来るお客の出迎えはする事がない。
α用抑制剤が完全に効くまで誰とも接触しないようにされているから、お見送りはしてもお出迎えと言う習慣はなくて、こう言う時は何を喋っていいのか分からなかった。
「え と、では、旦那様?こちらへどうぞ」
まるで棒読みなのが恥ずかしかったが、屋敷に着く前の客を旦那様と呼ぶのは正しいのか、名字で呼ぶ方が正しかったのか考え出すと訳が分からなくなる。
屋敷に来てしまえば客は皆『旦那様』と呼ぶが……人に由っては玄関で追い返されて『旦那様』にならない人もいる。そう言う事を考えてしまうと……
「何を変な顔をしているんだ?」
「へ 変⁉︎」
「ああ、すまないな、愛嬌のある顔だった」
「あ、あい 」
それは明らかにからかいの調子だった。
むかっとはするけど、さすがに客だと分かっている人間相手にぎゃんぎゃん噛みつく程、何も知らないってわけじゃない。
それでも何か言い返したくて、でも言えないし で、オレはむー……と唇をひん曲げる。
「ひょっとこの面のようだな」
「うっ って、言うか、案内してるんですから後ろを歩いてくださいよ」
「何故だ?」
「何故って……」
先導は先を行くものではないのかな?
「横に並ばねば、話がしにくいだろう」
「へ⁉︎」
この客は何を言っているのか……
「や……でも、 」
「なんだ?」
オレが何を言ってもこの客……時宝は聞いてくれないような気がして、問答するよりは と首を振る。
「言いたいことがあれば言えばいい」
「う ん へ」
「変な客」と言いかけて言葉を変えた。
「変わったお客様 ですね」
また不機嫌そうに何か言われるのかと覚悟をしたが、オレの覚悟に反して時宝は穏やかそうな横顔を一瞬だけ見せて、オレがじっと見ているのに気がつくとむっと唇を引き結んだ。
変なことを言っちゃったのかなって心配になって歩調を緩めたら、そっちを怒られて……今までのお客と違って扱いにくいなぁって思ってしまった。
「ここは、竹しかないのか?」
「……屋敷もございます」
「そうではなくて」
そう言うと時宝の視線が辺りをぐるっと探るように彷徨う。
風に時折鳴る音がよく響いて、現実なのか夢なのかわからないような雰囲気だった。
でも、これがオレの世界の全てだ。
「ここにあるのはこれだけでございます」
質問にうまく答えられないままそう質問に質問で返したオレに、時宝は何かに思い至って複雑そうな顔をした。
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1日1話かけたらいいな〜(他人事)
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