OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
628 / 801
お可愛いΩ お可哀想なα

落ち穂拾い的な 届いた手紙

しおりを挟む



 ついさっき雪がちらりとした空に目を遣ってから、かじかんだ指先にはぁっと息を吹きかけて、ポストを開けて中を覗く。

 新聞と、幾つかのチラシとDMと……それから…………

「   手紙」

 寒さだけじゃない震えで手紙が揺れる。

 DMとかではない、明らかに個人が個人に向けて書いた手紙に、どっと心臓が大きくなって送り主を確認した瞬間、つんと鼻が痛んで視界がじわりとぼやけた。
 薫らしい丁寧な文字で『阿川六華様』と書かれているのを見て、その場にへたり込んでしまった。

「あ  」

 よかった とか、嬉しい とか、もしも返事が来たらどうしようかなって思っていたのに、いざとなったらどう言う言葉を出したらいいのかわからなくて、ほとほと と涙が頬を転がり落ちる。

 マンションのエントランスの床は冷え切っていて、冷たくて、すぐに立ち上がって温かい部屋でその手紙を読みたかったのに、上手く立ち上がれる気がしない。

「  りっか!?どうしたの!?」

 髪についた雪を振り払いながらマンションに入って来た銀花が、へたり込むオレを見て慌てて駆け寄ってくる。

「なんだよ?」
「どしたー?」

 銀花の後ろから安定の二人組も登場して、オレを見て慌てた表情で何事かと尋ねてきた。

「かお、薫から、手紙きた」

 三人にずいっと突き出すようにして見せると、一瞬目を丸くした後にぱあっと目を輝かせて「よかったな!」って次々に祝ってくれる。
 手紙一つでへたり込んでいたオレを、笑うかなってちょっと思ってたから恥ずかしくなって、赤い顔のまま頷く。

「ありがと」


 立ち上がろうとしないオレを、結局三人が担ぎ上げて部屋まで運んでくれて……

 オレの部屋でどきどきしながら鋏を構える。
 できるだけ綺麗に開けたくて、端の方を薄ーく切ってそろそろと中身を取り出すと、丁寧な字で『六華へ』と書かれたのが見えた。

 ちょっと、読むのは、怖い。

 もう手紙を寄越さないで とか書いてたら?
 喜蝶との間を、邪魔しないで とか書いてたら?

 噂されていた言葉を思い出して、ちょっと「う 」ってなりかけたけど意を決して視線を便箋の上へと戻した。




 ノック音に返事をしなきゃ と思うんだけど、言葉が出なくて黙ってたら勝手に扉が開いた。

「りっか?」
「りーっか!」
「おい、六華!」

 ひょこひょこ と開いたドアから覗いてるんだろうなって三人の方に振り返らずに、「なに」ってぶっきら棒に返事をすると、ちょっと戸惑った雰囲気がして……

 おどおどとした声が上がる。

「ホットミルク作ったよ」
「べちゃってなってないぞ」
「カリカリにもなってないぞ」

 ほっといてよって言うのは簡単だけど、でもそれを押し退けてコクンと頷いてのそのそとドアの方に向かうと、オレを心配する三人が眉を八の字にして困ったようにおろおろしている。

「りっか?」

 こてん と首を傾げて問いかけるような銀花の呼びかけに耐えられなくなって……

 オレを心配してくれるその瞳に、堪えていたものが突き崩された。

「ぅ ぇ  えぇ……」

 堪えようとしたのに勝手に口がひん曲がって、ちっさい子供かなってくらい情けない泣き声が漏れ出す。

 そんなオレを三人がぎゅっと抱き締めて来る。

 オレよりも大きな三人にそうされると押し潰されるようなそんな感覚もするけれど、今はそのぎゅうぎゅうと押し潰されるようなその感覚が逆に嬉しくて……

 三人はどうしたんだって問いかけたりはしてこなかったけど、オレが泣き止むまでずっとそうやって抱き締めてくれていた。



END.

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...