OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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お可愛いΩ お可哀想なα

落ち穂拾い的な 淘汰

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 α用緊急抑制剤の期限が切れそうになる頃、瀬能はこの屋敷を訪れて兄弟全員の診察をすることになっていた。

 いつものように上から順番に診ていくつもりが、珍しく順番が入れ替わって義が一番最後にやってくる。

「じゃあいつものを出しておくね、何か変わったこととか質問とかある?」
「はーい!せんせぇ!どうして男女性の他にバース性があるんですか?この性別ってなんか必要なんですか?男女性だけじゃ駄目だったんですかー?」

 良い子の質問とばかりに問いかけてくる義を見遣る。
 瀬能は処方したα用緊急抑制剤を手渡しながら、「そうだねぇ」と呟いた。

「なんでだろうねー。でも、僕としてはバース性は淘汰される性だと思っているよ」
「とーた」
「なくなっちゃう性だと思ってるよ」

 そう言われて義はびくりと飛び上がる。
 自分の性別が無くなると言われて……ざわざわとした落ち着かない物を感じて座布団の上で体を揺すった。

「え、え、なんで?」
「うーん、そうだね。まずどうして性別があるのかの説明だ。いろんな説があるけど、遺伝子を混ぜる為とか遺伝子を修復する為とかいろいろな説があるよ」
「混ぜる?」
「生命がただ増えるってことに関してのみ言うならば、無性生殖が最強なんだけど、コピーコピーで産まれてくると一つの要因で全て滅んでしまう可能性がある。人類が分裂で増える生き物なら、ある年の流行り風邪で全滅ってこともあり得るんだよね」

 くるくると指先を回しながら説明すると、義はそちらに気を取られてしまっているようにも思え、瀬能は仕方なく踊らせていた手を下げた。

「ウイルスなんかは構造が単純だからあっと言う間に増えてあっと言う間に突然変異する、それに対抗するためには僕たちは遺伝子を混ぜやすい有性なんじゃないかなぁって話。そうすれば病気の流行とかあった時、全滅は避けることができるって訳だよね」
「ふん?あ、じゃあ今がイイ感じなんじゃ?異性が沢山いた方が出会いも多いし混ぜやすいから、男女性とバース性があるんですか?十個も性別あったら混ぜ放題だよね」
「ってなるよね、でも、ほとんどの動物が牡牝の二性だ」
「うん、だよね」
「これは幾ら沢山性別があっても、結局もてる種だけが子孫を残せるってことで残った結果なんだ」

 ふんふん と義は頷いてはいるが、どこまで理解しているかはわからない。

「んで、バース性が淘汰されるってトコロに戻るんだけど、性の中で一番もてるのはどの性だと思う?」
「アルファ?あ、でも、全部の性と混ぜられるって点だとオメガ?んー?でもやっぱりアルファ?」
「うんうん、実は無性」
「な、なんで⁉だって、アルファだってわかったら皆群がってくるよ⁉」
「そうなんだけど、もてるのと子孫を残そうと思うのかとは別物って奴なんだよ」
「でも、それなら外見でも能力でもアルファとかオメガとかのが人気あるじゃないですか?アルファは全体的に飛び抜けてるし、オメガは可愛い子多いし……いい匂いするし、それに……」
「発情セックスもキモチイイしねー」

 と、しれっと瀬能が言うと義が顔を赤くして俯いた。

「っ⁉」
「まぁそれは置いといて、確かにアルファやオメガの外見は突出しているし、能力はアルファは段違いだ、そしてオメガのセックスアピールは魅力的だよね?でもただ一点、彼らにはどうしても補うことのできない欠点がある」
「欠点ですか?」
「『運命の番』だよ。これがあるために、せっかく恋人や夫婦になっても駄目になることがある。駄目になる可能性がはっきり分かっていると、手を出し辛くないかい?どんなに好きになって愛し合っても、運命が現れてしまったらあっさり捨てられるんだよ?」
「……え、でも……好き合ってたら」
「運命の番の強制力を舐めちゃダメだよ」

 目の前で指をちっちっと振って見せる。

「この運命システム一点において、アルファもオメガも倦厭される場合が多くやがて淘汰される。その結果ベータだけ残ったとして、どうだろうか?運命が存在しない、ましてやフェロモンに左右されない大多数のその性だけが残ったとして、バース性自体の存在に意味があるんだろうか?実際、無性とバース性の違いって何かな?」
「えっと、運命 はアルファとオメガだし、だから、フェロモンを感じるかどうか?」
「それが意味をなさないベータ性だけが残ったとして、その機能はいるのかな?いらない機能って言うのはどうなるんだっけ?」
「た、退化?」
「うん、結局ベータ性もやがて無性に飲み込まれて消えてしまうんだよ。だから、バース性は消えて行くんだ」

 いつものように浮かべられた胡散臭げな微笑が恐ろしく思えて、義はもごもごと口の中で「ありがとうございます」と呟いて座敷から慌てて飛び出して行く。


「  ──── バース性なんて、滅んでしまえ」


 うっすらと口元に笑みを残したまま、瀬能はそう呻くように言葉を零した。



END.

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