OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
615 / 801
お可愛いΩ お可哀想なα

63

しおりを挟む



 見る方向によっては何となくハート型にも見えなくもないそれは、端の方が少し欠けて透明と白のストライプが見える。

 つかたる市の浜辺で瑪瑙が拾えるって聞いたことがあるから、きっとこれはそうなんだろう。

 オレを救ってくれた小石って思うとちょっと愛着が湧いてしまって、それに手の中にしっくりくるサイズと形のせいかなかなか手放せずに、くるくるくると手の中で転がすのが止められない。


 ────コンコン


 控えめなノックは、病室がうるさかったら聞き逃していたかもしれない。
 開けられたままになっていた病室の扉から、ひょこ と黒い髪が見えている。

「どうぞ」

 そう言うと、少し迷った風を見せてからおずおずとシュンが顔を覗かせて……

「六華くん、今……いいかな?」

 その胸元には小さな花束が握られていて、お見舞いなんだなってわかる。

「シュン!来てくれたんだ!ありがとう!」

 そんな心配するような入院じゃなかったのに、わざわざ来てくれるなんてなんて優しいんだろう!

 入り口でもじもじしているシュンを手招いて、ベッド傍の椅子を勧めると物凄く遠慮がちにちょこちょこと寄ってきて、少し悩んだような間を置いてから腰かけた。

「よかった、怪我したって聞いてたから……」
「怪我って言っても、かすり傷で入院なんて大袈裟なんだよ!」

 ははは と笑って見せるけれど、シュンの顔は浮かない。

 いつものようににっこり笑ってくれたらな って思うけど、それはずいぶんとデリカシーのないことなんだと思い至って頭を掻いた。

 オレにとってはそれで済んでも、シュンにとってはそうじゃないってのはわかる。

「あー……海の学校は?」
「ん 僕も、途中で帰って来たから……でも、千鶴達から帰ったよって連絡があったから」
「そ か 」

 シュンは椅子に座ったまま手の中の花束に視線を落として……

「  ────あの、六華くん、 」

 シュンの言葉はすらすらとは出ず、途切れがちで聞き取りづらい。

 でも、オレは言葉を挟むことなくじっとそれに耳を傾けた。

「  意地悪……して  っしたし、酷いこと言ったし、こんなことに巻き込んじゃって……」

 ぎゅっと握り締めているせいか手の中の花束が小さく震えて、シュンの心細さを表しているようだ。

「なのに、僕を 助けてくれて、庇ってくれて  」

 ぽとぽと とピンクの花びらの上に雫が落ちて、小さな花がきらきらと光る。

「救ってくれて……ありがとう」

 しゃくり上げる姿は頼りなくて可愛らしくて……

「  それから、ごめんね」

 そう言って突き出された花束を受け取らないなんて、そんな選択はない。
 震える手を覆うようにして花束を受け取ると、シュンがほっとしたのがオレにまで伝わってくる。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

金色の恋と愛とが降ってくる

BL / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:255

嘘の日の誤解を正してはいけない

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:256

木曜日生まれの子供達

BL / 連載中 24h.ポイント:2,016pt お気に入り:1,159

影牢 -かげろう-

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:15

君の番として映りたい【オメガバース】

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:198

エリート先輩はうかつな後輩に執着する

BL / 連載中 24h.ポイント:852pt お気に入り:1,720

悪役令息だが、愛されたいとは言っていない!【書籍化決定】

BL / 連載中 24h.ポイント:759pt お気に入り:1,180

もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:199,653pt お気に入り:4,763

処理中です...