OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
587 / 801
お可愛いΩ お可哀想なα

35

しおりを挟む



 まぁそれで喜蝶を投げ飛ばしちゃったんだけど……さ。

 悪かったなーとは思うけど、後悔はしてない!薫を護るためだからね!

「あっ!」

 薫の家に寄る途中だったんだ!

「ごちそうさまです!美味しかったです!」
「はい、お粗末様でした」
「支払いはタグでお願いします」

 このつかたる市はタグだけでも生活できるんだけど、それじゃ他の街に行った時に現金の扱いに不慣れだと困るからって、使用率は半々くらいかな?
 髪を耳に掛けて、左耳の耳輪につけられたピアス型のタグを見せると仙内さんが手を振った。

「今日は私のオゴリで」
「えっでもっ 」
「コーヒー気に入ってくれた?」
「はい!とてもオレ好みで美味しかったです!」
「なら、また飲んで欲しいからね」

 ふふ と穏やかな笑みに押し切られて、いいのかな?って思いながら「ありがとうございます」って頭を下げる。

「えらいね」

 ぽんぽんと頭を撫でられて、嬉しくなりながらもう一度お礼を言って木製のドアに手をかけた。

「またおいで」
「はーい」

 最初の、会話がなくて気詰まりだなって思っていた空気が一切なくて、またおいでって言われた嬉しさにぴょこんと跳ねる。

「きちんと人通りの多い所を、気を付けて帰ってね。六華くん」

 もう一度「はーい」って返事をしながら柔らかに鳴るベルを鳴らして店の外に出て……

 一歩、二歩……さん…………

 オレ、名前言ったっけ?

「…………」

 名前だけじゃない、注文もしてない、自分がαだってことも、言ってない。
 それに、最後の言葉は仁達がオレを送り出す時に使う言葉だ。

「    」

 そろりと振り返った先にあるのは、ドアに貼り紙が貼られたままの人気のない暗いお店で……

 風が首筋を撫でたせいか、ひやっとしたものを感じて足が止まってしまった。



 体がギクシャクとしていたせいか、通り過ぎる人達が変な目で見てたのは気のせいじゃないよね⁉

 絶対オレのこの動きのせいだ!

 ぶるぶると体が震えるせいか今にも膝から地面に崩れてしまいそうで、一歩一歩が小鹿のようだった。
 うちのマンションが見えてきて、エントランスに明かりが点いているのをみたらもう駆け込むしか考えられなくて、道が凸凹してたら絶対転んでたよって状態でマンションに駆け込んだ。

 大理石の床を蹴ってガラス張りの扉が目に入った途端、ぶわっと視界が歪むのがわかって……

「ぎんかぁぁぁぁっ」
「りっかっ!」

 寄り道したオレと違って真っ直ぐ家に帰った銀花はとっくに家でくつろいでいてもおかしくない時間なのに、青い顔をしてそこで待っていてくれた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

金色の恋と愛とが降ってくる

BL / 完結 24h.ポイント:449pt お気に入り:256

嘘の日の誤解を正してはいけない

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:256

木曜日生まれの子供達

BL / 連載中 24h.ポイント:1,980pt お気に入り:1,159

影牢 -かげろう-

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:15

君の番として映りたい【オメガバース】

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:198

エリート先輩はうかつな後輩に執着する

BL / 連載中 24h.ポイント:852pt お気に入り:1,720

悪役令息だが、愛されたいとは言っていない!【書籍化決定】

BL / 連載中 24h.ポイント:738pt お気に入り:1,180

もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:198,701pt お気に入り:4,777

処理中です...