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かげらの子
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しおりを挟む腕の中でひきつけでも起こしているのではと思える程体を震わせ、宇賀は泣きじゃくりながら自分を助け出した捨喜太郎にしがみつく。
「先神様のお怒りに触れますよ」
「…………」
「お戻りになって、どうか末々長く、この村にお授け物と『持つ者』の種をお残し下さい」
態度は無礼と思える程慇懃だ。
深く深く頭を垂れて、形だけは希う風を取ってはいるけれど、有無を言わせないそれはただの強制だった。
「子も産まれ育たず、使える土地も限られている、街の水路の整備が進めばこの村に意味などなくなるでしょう。ですので榎本様、貴男様の血でこの村をお救い下さい」
「…………私の血に、そんな奇跡を起こす力はない」
「貴男一人ならそうかもしれません、けれど、その血が増えれば?五人?十人?……その分だけ、この村にお授け物が来るでしょう」
薄く浮かぶ留夫の笑みは底の知れない恐怖を見せつけられているようで、飲まれないように捨喜太郎はしっかりと宇賀を抱き締め直す。
盲信的にお授け物さえあれば村の先細る未来がどうにかなると信じている姿は、滑稽でさえあると捨喜太郎はぐっと眉間に皺を寄せた。
「そんな先の話ではなく、今、先神に助けて貰えばいいじゃないか」
皮肉だ と、留夫の感情を逆撫でするだろうと分かってはいたが、口を吐いて出た言葉を止める事が出来ない。
「街の水路も、子供の事も、土地も!全て全て!神に頼ればいいだろう!」
ひゅ と風を切る音が響く。
「黙れっ!」
こめかみに衝撃を受けた捨喜太郎は一瞬途切れそうになった意識を辛うじて繋ぎ止め、宇賀の体に当たりはしなかったかと痛みで上手く開かない目で確認しようと、その頬を探った。
「や さきたろ 」
「大丈夫……」
ほとほとと泣く宇賀は無傷の様子で、捨喜太郎はほっとして宇賀の口元に落ちてしまった赤い液体を拭う。
「 ────……先神は、神なんかじゃない」
「なん 罰当たりな事をっ」
「この蛇神ん呪いで蛇だらけの山で、村に蛇が入ってこんのは……」
「違う!」と張り上げた声に村人の声が止んだ。
「村の中に蛇が来ないのは雀避けのこの音のせいだ」
遠くにカコカコ コトコト と木の触れ合う音が聞こえる。
「蛇は木の打ち付ける音を嫌う。だから、一年中、村の至る所に、張り巡らされているんだ。宇賀が山に入れるのは腰の巾着が音を立てているせいだ、先神の巫女だからじゃない。宇賀の首の鱗だって、繰り返し噛まれた事に由る傷跡が繰り返し繰り返しつけられてそう見えるだけだ!この地に蛇が多いのは山向こうに湖があって産卵に向いているんだろう。ここまで山深ければ餌にも困る事はない……と言う事は繁殖も容易い ただ、それだけの話だ」
「そ ん 」
「そして『持つ者』だから知恵を授ける事が出来るんじゃない、街で教育を受け、然るべき知識や技術を学んでいるから識っているだけで、この村で『持つ者』が育ったとして、新たなお授け物なんか来る訳がない」
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