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かげらの子
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しおりを挟む「ん っ」
「な?大丈夫だろう?」
「うん 」
桃のような頬の産毛を擽り、可愛らしい貝殻のような耳を擽る。
「私は自分の傷よりも宇賀の方が気に掛かるのだが……」
そう言って絡まる事のない長い髪を、頬に触れた指先で掬う。そこには、赤い鱗よりも更に鮮やかな紅を見せる捨喜太郎の歯型がはっきりと浮かび上がっていた。
細く絡まりやすそうな髪なのに、さらさらと芯が強く指に絡まる事なく滑り落ちて行く心地を気持ちよく感じながら、自分が付けてしまった傷の具合を見る為に項を撫でると、指先に皮膚の凹凸が伝わる。
「痛くは ないか?すまない、こんな乱暴を……酷い事をしてしまって」
「痛くない、じんじんして すごい、すごく、…… 」
言葉を区切ってしまった宇賀を怪訝に思い覗き込むと、蜂蜜のようなとろりとした目元を赤くしてはにかむ。
「うれしい」
愚直と思える程の言葉だった。
ただ言葉が足りないだけではないかと思わせないのは、宇賀が全身で捨喜太郎に対して愛しいと言う感情を向けているからだ。
捨喜太郎はそれに応えるように嬉しそうに笑い、壊さないように出来る限りの優しさでもって宇賀を引き寄せた。
華奢な為に腕の中にすっぽりと入ってしまう体は、湿気の含まれる山の夜気の中で温かく、縋るようにぴたりと体を寄り添わせる。
「 愛おしい と、思うんだ」
ぽつりと言葉を零すと、腕の中の宇賀がもぞりと動いて不思議そうにぱちりぱちりと美しい湖面のような目を瞬かせ「いとし 」と繰り返し、本能的にその言葉の意味を感じたのか、目尻に小さな雫を浮かべながら目一杯の力で抱き締め返し、互いの境目を消そうとするかのように小さな頭を擦り付け、お互いに大切な物を手放したくないとばかりに縋りつく。
香の匂いに操られて、散々お互いで貪った肌の感触を改めて堪能する為に、少しでも触れ合えるようにと掌で肌を撫で合い、そこから立ち上る熟れた匂いに鼻を鳴らす。
一際甘い香りが匂い立つ耳元へ唇を寄せた時、月に皓く浮かび上がる肌に小さな汚れを見つけた。
肌に落ちたそれは汚れと言うよりも紅薔薇の花弁のようで……
「これは っ」
捨喜太郎はそれが汚れではない事に気が付いた瞬間、自然と眉間に皺が寄るのを感じた。
宇賀の匂いに誘われて我を無くして求めてしまった自覚は十二分にあり、かなりの無体を宇賀に強要しただろう事は明らかだ。その中で薄い皮膚を傷つけるような事をしでかしてしまったに違いない と、捨喜太郎は首の歯型以外で宇賀を傷つけてしまった事に対して酷い情けなさを感じて体を震わせる。
「さきたろ?」
甘い雰囲気を消してしまった捨喜太郎に怪訝な表情を向けた後、宇賀は「ああ」と視線の先の辺りを指で乱暴に擦って見せた。
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