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かげらの子
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しおりを挟む「ひ 人を、は 孕ませ るとか、何を言っているのか」
捨喜太郎は緩く首を振ってもう一度逃げる事は出来ないかと壁に沿ってじりじりと動く。
「番様はお授かり物の香で、すでに情けを頂く準備が出来ておりますよ」
「なさ っ 何を言っているんだ!」
「この村の祭りをお知りになりたかったんでしょう?」
「それと一体……っ」
捨喜太郎は言葉を区切るとぐっと息を飲み込むように喉を鳴らし、確認の言葉を吐き出すのを嫌がるように眉間に深く皺を寄せた。
心当たりのある事柄を思い出し、そうでなければいいと一縷の望みを掛けてその言葉を口に出す。
「……この村の祭りは……夜這い祭り、なんですか?」
伊次郎の唇の端に浮かんだ小さな笑みが答えだった。
奇祭 とだけ聞いていたその内容の中に村人達による乱交があるのだとしたら、村の男達のあのひりつくような物を含んだ視線の理由も分かる物だ と、捨喜太郎は忌々しそうに顔を顰める。
祭りで使われる提灯が酷く小さな物で長時間の使用に向かないのも、小さな村の中で祭りの夜に目当ての人間を見つける間だけ持てばいいからだろう。村の女達が微妙な表情をしていたのもそう言う事だからだと得心が行き、ぞっとなって震えそうになるのを寸でで堪えた。
「そうですよ。ただ、今年は貴男が要ですが ね」
今年は特別な と言っていたのを見ると、この祭りにこの村の人間以外が参加する事は今までなかったのだろう。それをぽっと出の男が自分の妻を好きにすると言うのだから、村の男達からの反感も凄まじい物なのも納得だった。
「伊次郎様もですよ」
そう言うと留夫はやれやれとばかりに伊次郎の背を叩き、大袈裟なまでの溜息を吐いて見せる。
「当代村長として跡取りを作って頂きませんと」
「…………役目は 分かっている」
藪蛇だったとばかりに伊次郎は顔を顰め、「さぁ」と着物を広げた。
捨喜太郎はぐずるように嫌がるが男二人がかりで来られては成す術もなく、また宇賀の名前を出されてしまっては抵抗らしい抵抗も出来ず、無理矢理着せられた艶のない、気分までも重くさせるような着物を苦々しく見下ろす。
「お似合いですよ、では神酒を取ってまいりますのでもう暫くお待ちを」
祭服を着せる事が出来て浮かれているのか、留夫の笑顔が更に深くなる。嫌悪の表情でそれを見遣ってから、伊次郎に「無理です」と早口に告げた。
「私にこのお役目は無理です!私のっ 体は 」
自身の股間が育った際の根元の瘤を思い出し、捨喜太郎は羞恥を覚えて唇を震わせる。
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