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かげらの子
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しおりを挟む「あの薬は一昼夜眠りますからね。準備が済むまでこちらに居て頂きましょう」
「……」
「今日は皆で潔斎に励まねばらなん日ですから。伊次郎様も身を清めて頂きますよ」
「……ああ」
その声は小さな子供が親から受け入れがたい要求を出された時にする返事と同じ声音だった。
ごとごとと丁寧に再び天井に荷物が置かれた音が不安を掻き立てるが、捨喜太郎はぐっしょりと濡れた手を握り締めながら叫び出したいのを堪え、何事か会話をしている二人が遠のくまでじっと墓に埋められた死体のように息を潜めていた。
もう、いいんじゃないか と思う物の、遠くに音が聞こえてくると動く気力が根こそぎ奪われてしまうようで、呼吸ですらままならない心持で自らの心が落ち着く時を待つ。
「 ────っ」
こめかみを汗が一筋からかうように擽り落ちて行ってやっと捨喜太郎は目を開けた。
静謐の闇を目を凝らして見詰めるけれど、奥に一抱え程の木箱が幾つがあるのだけが辛うじて見えただけだ。伊次郎が出て行き、大人一人分の空間が出来たとは言えそう広くないそこは一人になってみると、息が詰まりそうな程に狭く、捨喜太郎は幼い頃に父に放り込まれた蔵の圧し掛かるような空間を思い出してぎゅっと体に力を籠める。
あれは、どうして放り込まれたのだったのだろうか と、現実から逃げたくてそんな昔の記憶を手繰った。
嫡子として生まれた為に弟や妹に比べて大概の事は大目に見て貰える生活をしていたし、生来の性格と言うのもあって幼い頃は叱責を受けると言う場面自体が非常に少なかった。それでも蔵に放り込まれる程の何かをしたのだ と、捨喜太郎は首を捻る。
「父は……」
性根を鍛え直せと言い放ったと記憶している。
闇は怖くなかった。
埃まみれの、今にも付喪神を生み出しそうないつから存在するのかすらも分からない、数多の古道具達に対しても何も思わなかった。
生活に馴染まない、異質なものとしての警戒はあったが恐怖を感じる対象ではない。
「…………押し入れ だったか」
榎本の家は先祖より代々暮らしてきた古い屋敷だった、そのあちこちは直し終わった箇所もあったが人のする事で見落としもあった。その中に一つ、押し入れの天井のずれがあった とそこまで思い出し、捨喜太郎ははっとなって首を振る。
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