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かげらの子
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しおりを挟む人々が含む目でこちらを見る以上、そこは居心地がいいとは決して言えない。逃げてどうなると捨喜太郎自身分かってはいるのに、どうにもそう言った人々の間に入って行く勇気が持てなくて、カコカコ と音の鳴る道を上って行く。
「昼間でこそ紐が目に見えるが、暗闇じゃあこの紐に引っ掛かったりしないものなのか?」
素人が見るに、その雀避けの紐の張られ方に一定の形があるように思えない。
木の細い板に穴を開けて紐を通し、目についた所に張ってある……それだけだ。木の大きさもまちまちだし、張り方もたわんでいるものあれば一切の緩みもないように張られている物もある。
それはそれぞれを作った人間の性格によるものじゃないのかと、捨喜太郎は他の物よりも少し細長い木の板に触れながら思う。
田んぼを過ぎて伊次郎の家の方にまで上がると、見慣れない男が初日の捨喜太郎の様に家の前に腰を掛けて一服している所だった。たった数日とは言え、この村の人間の顔は覚えてしまっており、顔だけでなく服装からも自分と同じよそから来た人間ではないかと推測できた。
「やぁ。こんにちは」
見つかる前に踵を……と思う前に相手に声を掛けられ、捨喜太郎は慣れない愛想笑いを浮かべてぺこりと頭を下げながら男に近づく。
暑さのせいか崩れてはいるが、こんな所で糊の効いた服とは珍しい。
「こんにちは、暑いですね」
「そうですね、おしめりでも欲しい所ですよ」
そう言うと男はふぅと汗を拭く。
少し恰幅が良すぎるこの男にとっては、この村を上まで上がってくる事ですら一苦労そうに見える。
「まぁ、今年は閏水無月ですから仕方ありませんな」
「そうですね」
四年に一度閏年がある様に水無月にも閏年がある、梅雨でありながら雨が降らず、水が酷く不足する空梅雨の事だ。時折気まぐれ程度に降る事はあっても、大地を潤う程でもなく、ましてや涼ませてくれるような雨でもなかった。
「やはり今年は水が足りませんか」
「厳しいです。ですがまぁ……ここには先神さまがおられるから、何としてもお願いして帰りませんと」
「…………は?」
「おっと」
男は慌てて口を塞ぎ、辺りを見渡す。
「貴方はこの村の人じゃないんですか?」
ひそひそと聞かれると、酷く悪い事をしている気分になってしまい、捨喜太郎は眉をしかめる。
「この 村の、先神様の事を調べに来ている者です」
そう言うと、男は詰めた息を慎重にそろそろと吐き出して、最後の息を一気に吐き出した。
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