OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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かげらの子

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 宇賀自身が嫌がっているのを無理矢理組み敷かれているのならともかく、これからもこの閉鎖された空間で、それで糧を得ている宇賀を、通りがかっただけの捨喜太郎が安易に助ける事は……許されない。

 村の人間の鬱憤の矛先を
 宇賀の糧を奪って

 時が来たらここから去ると言うのに、

「俺自身に 責任なんて   取れない……」

 脳裏に、汚される宇賀を思い浮かべては捨喜太郎は眉間の皺を深くした。



「明後日の祭りの内容を教えていただけませんか?」

 孫を背負っていても可笑しくない年齢の女性にそう声を掛けると、酷く訝しむような顔をしてから顔を逸らされてしまい、捨喜太郎はまた何かまずい事でも言ったのかと狼狽えた。
 けれど覗き込んで見た顔は怒りや不快さを示しているようではなく、どちらかと言えば恥じらっているように思える。

「ぁー……まぁわしはもう上がっとるから、ええけど。娘さぁには聞いたぁあかんよ」
「あ?はぁ……」

 老齢の女性に聞くのは良くて、妙齢の女性に聞くのは良くない……と言葉を直し、年齢が関係するのかと手帳を書く手を止めた。

「ぼんぼり持って家出たら、人を探すん」
「人?どなたを?」

 そう尋ねた途端、壮年の女はふふふふ……と高らかに声を上げて笑い、遠慮のない張り手を捨喜太郎の腕に振り下ろす。
 小気味よい音が一瞬辺りに広がったが、誰も気にはしなかったのか騒ぎになる事はなかった。

「いっちゅーや、気ぃ なっとん、まぁー他んもいろいろよ」

 うまく聞き取れずにえ?と眉を上げる。

「がっしりしたのがええね、強いやか?」
「は?はぁ」

 体が堅強ならば強いだろうが、そう言う意味ではないような気がして捨喜太郎はもっと情報を貰えないものかと身を乗り出す と、頬をぐぃっと手拭いで拭かれ、けたけたと笑われた。

「お兄さんもえー顔、しとん」
「は?」
「男ん前ね」

 女はけたけたと笑って作業に戻って行き、話は途絶えてしまった。仕方がなく、他の手の空いている人間はいないかと視線を遣れば、何故だかさっと逸らされる。

 偶然ではなく、ちらちらとこちらを窺っていた女達ですら、視線を合わせてはくれない。では男陣ならば……とそちらに顔を向けるも、こちらは取り付く島もない様な剣呑な雰囲気で、こちらが何かを言おうと口を開くと舌打ちをされてしまうような、そんな状況だった。

「……今朝 の、事で機嫌を損ねたんだろうか……」

 村社会の噂の巡りは早く、娯楽を邪魔した余所者と呼ばれてしまえば名誉を回復するのは難しいだろう。

 手の中の手帳をぱしりと叩き、捨喜太郎は「参った……」とごちながら目的を定めずに歩き出した。




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