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かげらの子
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しおりを挟む宇賀の頬についた乱れ髪を指で摘まんで払ってやると、驚いた宇賀が照れるように見上げてはにかむ。
この表情を一瞬たりとも見逃したくない と、
この意思の向く先が自分でなければ と、
そんな思考が頭を埋め尽くす。
鼻をくすぐる花薄荷の匂いに、目が回りそうだった。
同じ匂いを嗅いだ事がある筈なのに、それとこれとは全くの別物だ。
絡むように、
誘うように、
愛おしむように、
水を頭から被ったのだから、体に香を纏っていたと言う事は考えにくい。だからこの匂いは宇賀自身の匂いだ。
「 これ以上は……」
その匂いを鼻腔一杯に吸い込むと、多幸感にはぁと体中の空気を吐き出して安堵したくなる。
体の緊張が解れると同時に下半身に血が巡るのを思い起こさせた。
柔らかな宇賀の臀部で揉まれたそこは、抵抗の気配など見せないままに従順に旗揚げをするつもりの様だ。
「──── っ、宇賀、頼む、駄目なんだっ」
掴んだ宇賀の方は温かく、日も登って木々の隙間からは煌めく木漏れ日が落ちている。滝の傍だから実感は湧きにくいが、村の方では暑いと言い出す人間が出始めているかもしれない。
だから、もう体を温める必要はないだろう。
「 見られたくないんだ 」
か細い声は親を亡くした子犬のようで……
その秘密を言いたくない、特に宇賀に知られたくないんだと言外に訴えていた。
宇賀が怪訝そうな表情で首を傾げ、鏡面だと思っていた光を弾く青みがかった瞳で捨喜太郎を心配そうに見上げる。
黒でも茶でもない、薄茶にやや梅雨空の晴れ間の色を混ぜた不思議な瞳に、捨喜太郎は魅入られて拒絶の言葉を言えずにいた。
「 どうして?」
子供の様な裏を持たない純粋な問い掛けは時として人を苦しめる。
捨喜太郎は誤魔化せる言葉も、怒り出す事も出来たのに、素直に白状する道を選んで口を開いた。
「俺のそこは、人の形を取らないんだ」
簡潔にそう言うと、宇賀は言葉を理解し損ねたのか困ったように眉根を寄せて首を傾げる。
愛らしいその姿を手放しで喜べないまま、捨喜太郎は言葉を探す為に唇を舐めて湿らせた。
「 俺の性器 、摩羅は、 形がおかしいんだ 」
それは自身の男としての価値を泥沼の底に沈めるような言葉だ、けれど宇賀にはそれを告げなければと心のどこかが囁いていて、捨喜太郎は逆らう事なくその言葉に従った。
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