OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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かげらの子

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「なぜ、そこまでよくしてくださるのですか?」

 最初は、取り付く島もない程、けんもほろろな態度だったのだ。

 手紙を送れば封が開いていればいい方で、大半は開けられる事なくそのまま送り返されていた。そんな事が何年も続いてのこれ だ。

 手のひらを返したようにとはまさにこの事で、嬉しさのあまり意気揚々とここに来てみたはいいものの、その違和感は拭い去る事が出来ない程膨れ上がっていた。

 今までの態度と、

 手紙を読み、
 返事を書き、
 迎え入れ、

 歓迎し、

 そして、もしかしたら捨喜太郎の血がこの村に入る事になるかもしれない出来事を勧めてくる。

 これにはもう、一層恐ろしいと言ってしまう他ないような感情を揺さぶり起こそうとしているようだった。

 掻き混ぜた味噌汁の表面が澄み、澱が溜まるまで伊次郎は何も口を開かなかったが、その表情は無視ではなく言葉選びをしていると物語っている。
 だから捨喜太郎は箸を下ろしたまま、真正面に伊次郎を見つめ続けた。

「     ────捨喜太郎さん、貴男は『持つ者』でしょう」

 長考の末に出た言葉に、捨喜太郎は心臓が飛び出るのではないかと心配して、思わず口を両手で押さえなければならなかった。
 その言葉を、こんな場所で真正面から尋ねられるとは思ってもいなかった為か、捨喜太郎は返事を返せないまま窺うような卑屈さの垣間見える視線を送る。

「でしょう?」

 重ねるように問われて、仕方なくと言った感情を隠しもしないで捨喜太郎は微かに頷いて見せた。

 『持つ者』は稀に現れる才能の豊かな人間の事だ。

 華族や貴族の血筋に多いと言う事は分かってはいるが、誰がそうであるかの判断は難しい。けれど……精通を迎えるくらいの年頃に花に惑わされると言う特徴がある。

 花 とは、色事だ。

 それまで真面目でその手の事に一切興味を示さなかった者ですら、ある日を境に狂ったようにそれを求めだす。男であれば色事に興味が出てくる年ではあるが、『持つ者』の渇望は常軌を逸する。そして多くは一時の気の迷い程度の奇行だが極々稀にそのまま現実に戻って来れない者もいる為に、世間からは胡乱な目で見られる事も多い。

 ただ、そう言った人間には頗る優秀な人間、才能を持っているが故に『持つ者』と呼ばれる者が見つかる事もあり、産まれも相まって往々にしてそれは歓迎される。

 英雄色を好む ではないが、その特徴がかつて名を成した人物達に散見されるのは、そう言った事情があるからだろうと捨喜太郎は思っていた。



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