448 / 801
かげらの子
8
しおりを挟む「 ぁ、っ っ 」
支えられているとは言え坂道のせいか、どうしても左右に体が振れた際にはつい足に力を入れてしまって、呻くような声が漏れる。その度に留夫は申し訳なさそうに頭を下げて、「もう少しですから」と捨喜太郎を励ましてくれた。
さすがにこの地で生きている者だからか、留夫は捨喜太郎に肩を貸しても息も切らさずにぐいぐいと力強く山道を進んで行く。
腕を掴んでいる掌は固く、肩は隆々としていて、またその地面をしっかりと捉える両足も逞しかった。身長と態度のせいで侮られやすいのではないのかと捨喜太郎が思ってしまう程、その体躯にその人懐っこい笑顔は釣り合っていないように見えた。
自分の日に焼けて赤くなってしまった腕と、留夫の健康的に焼けた肌を交互に見やって、微かな劣等感を抱いたのは言うまでもない事だった。
コトコト
カコカコ
コトコト
カコカコ
歩みを進めるにつれて耳に入り出した不思議な音に、留夫の促しのままに進めていた足が止まる。
コトコト
カコカコ
甲高く、そして柔らかい音色だ。
その聞きなれない音に、捨喜太郎は怪訝な顔をしていたのだろう、留夫に痛むのかと心配の声を掛けられて慌てて首を振る羽目になった。
「この音は?」
「ああ、雀避けです。ご覧の通りここはそう広く田んぼを取る事が出来ないので、雀のお味見でも笑っていられないんですよ」
コトコト
カコカコ
村の中、中心に近づくにつれてその音は数と大きさを増していく。
よく見れば村のそこここに木片を絡めた縄が張られ、それが風に揺れてコトコト カコカコ とうら寂し気な音を響かせていた。
「まぁしかし、良かったですねぇ、あんなとこに座り込んで」
「や、 全くです、見つけてもらえなかったら干からびている所でした」
「いやいや、それではなく、この村の周りは蛇が出るんですよ」
留夫からしてみれば慣れ親しんでいるからか、日常の話なのだろうが、残念な事に捨喜太郎の住む街では蛇なぞついぞ見掛けない。
思わず顔色を失った捨喜太郎に、留夫はわははと豪快に笑いを零すと、村には居ないのでご安心を と告げた。
だがいないと言われても、ここまで自然と同化しているような土地なのだから、蛇なんて気ままに出入り自由の筈だ と、捨喜太郎は口を引き結ぶ。
「毒を持つものもおりますので、外へ出る際はお気をつけて」
「あ ああ」
「まぁ全てが全て恐いものではございませんので、どうかどうか悪い事はされませんよう」
言葉の奥にひやりと肝が冷えると言うか、背筋をぞくりとさせるものを感じ取って捨喜太郎は呻くように頷いて見せる。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

組長と俺の話
性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話
え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある?
( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい
1日1話かけたらいいな〜(他人事)
面白かったら、是非コメントをお願いします!



目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる