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かげらの子
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しおりを挟む今回の事で何らかの有用な結果なりを挙げる事が出来なければ、大学での居場所はなくなる。
師事している教授ですらも、眉唾な研究に没頭する捨喜太郎を庇いきれなくなっていた。
「 真っ当な職に、就かんといかんか?いや、それだけではないな……跡取りとしては、俺は出来損ないだものなぁ?」
鼻先を通る羽虫にそう問いかけるが、勿論応えなどない。
「……外の国の方が、おめがが良く研究されていると聞く。最後に家に旅費を強請ってみるのもありだなぁ?家も喜んで出してくれるかもしれん」
物欲しそうに寄ってきた雌の蚊を追い払い、そう言う道もあるんじゃないかと思い至れば目の前が開けた気になり、捨喜太郎はぐっと奥歯に力を入れて挫いていない足に力を込めて立ち上がった。
それならば、こんな所で蚊の繁殖に助力している事はない。
「 ────っ、う」
気力は十分だったけれど、腫れだした足にその気持ちは伝わらず、勢いで立ち上がったものの体がぐらりと傾いで、縋れる物はないかと思わず腕を振り回した。
「わっ!ぷっ!止めてくださいよ!お客人!」
腕が頭に巻かれた手拭いに当たる感触がした。
咄嗟にその人物にぶつからないようにと体を捻ろうとしたがうまくいかず、結局倒れ込んで再び手を草叢に突き入れる事となってしまった。
「大丈夫でございますか?お怪我は?」
「あ あぁ、ない」
草のお陰か、掌には擦り傷すらついていない。
「だが足を捻ってしまっていて、どこかで休める場所を借りれないでしょうか?私は 」
「榎本様でございますね、村長から伺っておりますよ」
この男が、これから目指す村の男であると分かったからか、捨喜太郎はほっと胸を撫で下ろした。
「田植えの最中でしてね、汚れてて申し訳ねぇですが、掴まっていただけますか?」
「そんな大事な時期にお手間を取らせて申し訳ない」
捨喜太郎の荷物を片手に下げた男の肩に手を回しながら、そう謝罪をすると、男は人懐こそうな丸い顔を歪めて「いえいえ」と愛想良く応えてくれる。
男は、作業用の草臥れた着物に身を包んだ小柄な中年男だった。明らかに年下と分かる自分に丁寧に接するのだから、村長の家の下男か……と、捨喜太郎が目星を付けていると、男が大袈裟に飛び上がって「紹介がまだでしたね」と切り出す。
「崎上と申します、とは言え崎上は多いので、留夫と呼んでいただければ通じます」
父親程の年の男を見ながら留夫 と口の中で繰り返し、もしかしたら彼は末っ子なのかもしれないと捨喜太郎は思った。
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