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Dog eat Dog
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しおりを挟む菱形ヒエラルキーの最底辺、地面に刺さってる部分がΩだ。
Ω保護の風潮が強まって、一部じゃ行き過ぎたΩファーストのきらいもある世の中だけれど、Ω達からしてみたらやっぱり差別に腹の立つことに、ままならないことに……そう言ったことが多すぎる。
いや、違う……かな、正確にはΩの社会的立場が見直されるにつれて、Ω内で格差が生まれた。
Ωがちやほやされるにつれて、ΩらしくないΩは取り残されて地面にめり込んだってわけだ。
「──── おい」
その声のお陰で、数字を追いかけていた指がぐっと曲がった。
集中力が途切れたのがわかって、詰めていた息をそろそろと吐き出すけれども、その集中力はどこかに逃げて行って戻ってくることはないだろう。
鬱陶しく思いながらも振り返り、「はぁ?」と返事をすると、同期の研究員のはずなのにやけに上からな態度でファイルを投げて寄越された。
分厚い、青いファイルはこの部屋から一番遠い資料室の物だ。
「え と?」
「それ、片付けてきて」
「…………」
オレが必要とした資料ではないし、オレは今作業中でもある。同期の後ろを見れば今年新しく入った後輩もいるのだから、そちらに頼んでもいい事柄だった。
ぼさぼさとした前髪の隙間から、眼鏡越しに後輩を盗み見る。
線の細い華奢な体とは言えその線は滑らかでバランスが良くて……尋ねなくともバース性が一目でわかるような、華やかな姿をしていた。
ぺちゃくちゃと話す声も掠れていなくて可愛らしくて、同期はそんな後輩に鼻の下を伸ばしている。
華奢とは言い難いただの痩せた体型と、幾ら頑張っても艶の出ないそう言った髪質と、白い分そばかすの目立つ肌と……そんなオレとは正反対の存在は、近年社会的立場の改善されたΩの象徴そのものだ。
「…………」
言い返すことは できなくもない。
この同期を飛び越えて、雑談に興じている後輩に「これ片付けて欲しいんだって」って言えばいいだけの話で。
理解して、結論が出て、そうできるのにオレは何も反論せず、その青いファイルをぎゅっと握り直して部屋を出た。
閉まっていく扉の向こうから一際華やかな笑い声が聞こえて、形の悪い薄い唇をぎゅっと噛み締める。
「別にいいさ、ちょうど昼休憩を取ろうと思っていたところだし」
聞いている奴なんていないのに、そう負け犬的な捨て台詞を吐いて腕時計を見ると、昼休憩ではなくおやつ休憩になろうかと言う時間帯だ。
忙しいのは有り難いこと と言えるのは、前向きに商いを行っている奴らだけだろう。
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