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花占いのゆくえ
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しおりを挟む押さえつけられた肌に残る痣と、切れた唇、感情を見せずに虚ろを見る瞳に気の利いた言葉が出なかった。
「 ──── も、だ いじょうぶ、だから 」
「 ぅっ ん」
縋られると嬉しいはずなのにどうしていいのかわからないオレには重荷で、ただしっかりと抱きしめる。
────なんで!ベータの癖に!
薫を抱えてあの部屋から出ようとしたオレの背中に投げかけられた声は、裂かれそうなほど引き絞られていて、か細い泣き声に似ていた。
────僕だって!同じベータなのに!
なんで の言葉に、オレが返せる言葉を持っていると思ったのか。
どうしてβなのか、
どうしてΩなのか、
どうして、αなのか、
そんなの、オレが聞きたい。
ただでも一つはっきりしていることは、あのβが憎くて憎くて堪らないことだけだ。
ともすれば怒りで威嚇フェロモンが出そうになるのを、薫を抱きしめる手に力を籠める事でぐっと堪える。
「 あ……」
力を籠めすぎたかと慌てて薫を覗き込むが、苦しそうな表情ではない。
ひ と小さな息を吸い込む音をさせた後、恐ろしい物でも見るようにオレの顔を見上げてきた。
汚れても、銀を散らした綺麗な黒い瞳がオレを映す。
「ど 」
どうした?の言葉が出る前に、みるみる大きな両目に涙が溢れてオレの大好きな黒い瞳が歪んだ。
「 ──── 喜蝶の、匂いが しない 」
まるでそれが罪の告白だったかのように、絶望に言葉を途切れさせながら薫が言った。
「にお い ?」
「わ わか 、んな 」
どっと脈打ったせいで心臓が痛んで、薫の言葉が聞こえない。
「ゃ 」
オレの考えがわかったのか、溺れて藻掻くように拒絶を示した薫の抵抗を押さえつけて、咄嗟に隠そうとした首の後ろを見詰めた。
白くて、薄い皮膚。
楕円の赤い血を流す、それは……
お互いが上げた短い悲鳴は声に出ていたのかは覚えていなかった。
ただ縋りついてくる薫を抱きしめ返して、かろうじて呼吸することだけが精いっぱいだった。
安易な慰めの言葉なら幾つも浮かんで、薫じゃなければ適当に飾り立てた言葉を言えたかもしれない。でも、薫に、もっとも大事にしたいと願った相手に掛ける言葉を見つけることはできなくて、項垂れるようにしてべたつく黒髪に頬を寄せる。
「 とにかく、病院に行こう」
大きな傷はないように見えたけれど、力づくの行為はどこに傷を残しているのか自分じゃわからない。
「今から救急車を呼ぶから、少し我慢できるか?」
オレのブレザーを掛けたところで、薫の汚された部分は隠しきれなくて。
バスに乗ったとしても、タクシーを呼んだとしても、明らかに暴行の痕のある薫を連れている以上、通報は免れない状態で……
それならもうここから直接病院に行った方がいい。
「きゅ 」
カチカチ と歯がぶつかって立てる音が大きくなって、しっかりと抱きしめているはずなのに薫の体が腕の中から転がり落ちる。
「や やっ!」
後ずさって逃げようとする姿からは普段のおっとりとした雰囲気は一切なくて、その姿に息が吸い込めなくて窒息しそうだった。
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