372 / 801
花占いのゆくえ
62
しおりを挟むどうして逃げるのか、なぜ距離を取ろうとするのか、
「こんな いい匂いを させて 」
獲物なのに、
αに食われるための存在なのに!
「 ────喜蝶くんっ!」
鋭い声に指先が空を切った。
はっと我に返るけれど耳の中が自分の心臓の音で占領されて、微かに触れることが出来たその黒髪を掴みたくて、止めようと思うのに同時にミナトに向けて手を伸ばしてしまう。
「オレ いつ 」
ミナトから距離を取る為に窓際に逃げたはずなのに。
「 ぁ や 喜蝶くん 」
赤く欲情に蕩けた目と、なのに怯えと。
「っ ミナトさんっ にげ 」
花の匂いじゃない、
Ωじゃない、
わかっているのに、この甘い匂いに抗えない。
「っ すぐに、薬が 撒かれるからっ」
ミナトがドアノブに手を掛けようとしたところで足首を掴んだ。
力任せに握り締めてしまうと折れてしまいそうな細い足首が酷く蠱惑的で、手の中にあるそれが堪らなく大事に思えて勢いよく引っ張った。
「 ひ ────っ」
力任せにオレに引っ張られて、ドアノブにかかっていたミナトの指先がカシ……とドアの表面を掻いて床へと落ちる。
床に縫い付けた小さくて頼りない存在に、
支配欲が、
征服欲が、
庇護欲が、
そう言った物が満たされて堪らなく気持ちがいい。
わずかに開いている作業着の襟元から匂い立つ濃厚なフェロモンは、βとは言え強烈で眩暈がしそうなほどだ。
「あ ぁ っ」
堪える為に噛み締めた口の中が金臭い。
これが、発情期の匂いなんだ と、消えそうになる理性で小さく納得した。
振り下ろされたペン型の注射器が太腿に食い込み、その痛みに小さく呻くと傍らの気配が怯える気配がする。
「な ?」
遠くで聞こえるかのような啜り泣きと、オレを見詰める黒い瞳と……
「 っ!薫っ!」
どっと跳ねた心臓の促すままに飛び上がると、すぅっと視界が暗くなって体中から力が抜けた。
倒れ込んだオレを再び薫が覗き込み、不安そうに眉根を寄せる。
「喜蝶、動かないで」
動くな と言われても動ける気がしない。
なんだか体の中身だけが落ちて行くような、そんな感覚に呻くことしかできず、とりあえず大きく息を吐いた。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
聖也と千尋の深い事情
フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。
取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる