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花占いのゆくえ
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しおりを挟む慣れない、絵の具独特の臭いと、鉛筆の臭い、それから……よく分からない物の臭い。
不快ではないけれど、自分の生活には全く関係してこなかったそれらに戸惑って薫を見た が、視線が合わない。
「ちょっとごちゃごちゃしてるでしょ?皆が使ってる場所だからだからね!」
ちょっと?
そんなことないよな?と問いかけようとして薫を見るが、視線はやっぱり不自然に逸らされていて。
側から見れば初めて来る場所に興味を持って辺りを見渡しているように見えるんだろうけど、これはそうじゃない。
「薫?」
声を掛けても明後日の方に気を取られる「フリ」をして、視線は最後までこちらに来なかった。
「じゃあ よろしくお願いします」
「あ、はい」
美術室の棚に置かれているような大きなスケッチブックを持って、ミナトはオレの前で深くお辞儀をした。それに慌てて頭を下げて返すと、ふふ と小さく笑いが返る。
「ありがとう!引き受けてくれて。すごく描きたかったから」
「や、そんな大げさな」
「うぅん、嬉しい!おこづかいにもならないだろうけど、お礼も渡すからね!」
にこにこと笑顔で言われると嬉しいのは、ミナトの笑い方がどことなく薫に似ているからだと思う。
後ろに本人がいるのにそんなことを思うべきじゃないのは分かっているけれど、たぶんオレはこの手の顔……と言うか雰囲気の人間に弱いんだろう。
「空調効いてるから大丈夫だと思うんだけど、寒かったり暑かったりしたらすぐに教えてね?」
「うん、わか って、ミナトさん⁉」
いきなりオレのブレザーを脱がしにかかったミナトに驚いていると、ミナトはぽかん としてから急に飛び上がった。
「あ あ あの、ヌードだって、言ってなかった?」
「ええええっ⁉」
オレの上げるべき声を薫が代わりに上げてくれた。
大きな目を更に大きくして、口も丸く開けた状態で驚いた顔をしていた薫は、はっとなって慌ててオレをミナトから引き離し、間に入って手を大きく広げて首を振る。
「そ、そんなのっ駄目っ」
普段から物静かな薫の声に驚いて言葉が紡げないでいると、ミナトの口がきゅっと引き結ばれたのが見えた。
唇の内側を噛んだのか、小さく震えて言葉を飲み込んだようだ。
「 駄目 とか言われても 、モデル やるって言ってくれたのは、喜蝶くんだから。申し訳ないけど、関係ない人は 口を出さないで 欲しいんだけど」
そろそろと言葉を選んだのか、ミナトの言葉は途切れがちだった。
「俺が言ったからっ!喜蝶は俺が勧めたから受けただけなんです!自分の意志じゃなくてっ」
ミナトが言葉を詰まらせてさっとオレを不安げに見上げる。
ぱっちりとした目が不安に揺れて……オレだけを映して縋ろうとしているのを見ると、無下にすることも出来ずに途方に暮れて眉をしかめた。
「 た、確かに、ヌードって言わなかったミナトさんが悪いよ。オレ、それなら断ってたし」
「っ ごめ 」
「でも、ここまで来ちゃったし、課題なんでしょ?間に合わなかったら困る?」
ミナトは言葉を一瞬詰まらせた後、胸を押さえながら俯いて小さく頭を縦に振る。
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