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花占いのゆくえ
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しおりを挟む「喜蝶くん……あの、急にごめんね、学校は?」
「サボってきた」
急ぐとミナトは言っていたが、それはミナトの都合でオレの都合じゃない。別に放課後まで待っても良かったが、薫がついて来ると言った以上、遅くなって薫の門限を過ぎてしまうのは避けたかった。
申し訳なさそう肩を竦めたミナトは、二人で買い物に出かけた時よりも……なんと言うか、気合を入れて作品作りに取り掛かっているのがありありと分かるような、絵の具のついた服に乱れた髪をしている。
展示に出す作品だから と言っていたので、全力で取り組んでいるのが分かった。
「あー……と、薫が大学を見学したいって言うから連れてきた」
「あ ああ、そっか、もうすぐ受験だもんね」
それでもなんだか微妙そうな顔で……
「え と じゃあ、とりあえず喜蝶くんは来てもらってもいい?薫くんは、案内できそうな奴に声かけるから待っててもらえる?」
一気にそう言うと、ミナトはぱっとオレの手を掴んで校門脇の通用口の方へと引っ張る。
「俺もっ!俺も ミナトさんのっ 方に行っちゃ駄目ですか?」
オレの制服の裾を掴んで言う薫を見て、一瞬繋いだ手にぎゅっと力が籠った感触がした。
微妙そうな表情で、それでも笑顔で「いいよ」と返して歩き出すミナトの手は、しっかりとオレを掴んだままだった。
草に埋もれそうなコンクリート造りの狭い階段を上がって、学科棟の裏手へと出る。
高校の校舎とは違う雰囲気の建物と、山と積まれたよく分からない廃棄されたオブジェの残骸と……一人で来たらその雰囲気の異様さに動けなかったかもしれない。
遠くに響くドリルの音と、どこからか聞こえてくる良く分からない空気の噴き出されるプシュプシュと言う音を聞いて、増々心細い気分になってくる。
「ごめんね、モデルを頼んでた子のパートナーがヒートになっちゃったらしくて」
「あ うん」
「ベータのモデルさんだとやっぱりちょっとイメージが違ってて、やっぱり 喜蝶くんがぴったりかなって思ったから」
こっちだよ と案内の態で掴んでいた手は、いつの間にか引っ張る動きに誤魔化して腕に絡められている。
壁際に山と積まれた段ボールの脇を通る時はワザとなのかぎゅっと体が近寄って、その時微かに甘いミルクのような香りが鼻を掠めた。
コロンとかシャンプーの匂いとかそう言った物とは違う種類の匂いだ。
フェロモンに対する条件反射で、すん と鼻が鳴る。
普段は抑制剤が効くと言っていたから、もしかしたら発情期が近いのかもしれない……と、そう思っていたせいかミナトをじっと見つめてしまっていたらしい。
ぱちりと視線が合うと、小さく照れられた。
「ごめん、課題に夢中になってたから汗臭いかもっ!ずっと泊まり込みだったしっ」
恥ずかしそうにごめんと繰り返されると、匂いが分かったとは言い出しにくくて曖昧に笑って返す。
「 それとも、ちょっと匂っちゃったかな?喜蝶くんに会えて嬉しかったから、いろいろ漏れちゃってるかもしれない」
はにかむように笑いかけられるとこちらも面映ゆくて、好意を寄せられて悪い気はしなかった。
「こっちだよ」
人が繰り返し触れるからか、元は白かったのに黒ずんだ壁を右手に折れて、突き当りのありふれた扉を引いてオレ達を中に招く。
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