343 / 801
花占いのゆくえ
33
しおりを挟む指だけじゃなくて赤くなった耳も齧りたい。
このまま連れ帰って、発情期まで閉じ込めて、もう証明とかそんな煩わしいこと考えずに、オレの感情だけを最優先にして犯して項を噛んで……
番って、
犯して、
孕ませて……
そう、孕ませて、だ。
「…………かおる、だーい好き」
「だ、め だって。ミナトさんだって嫌がるよ!」
なんでこの場でミナトの名前が出るのか分からなくて、思わず「あ゛?」と変な声が出た。
急に妄想から引き戻された気がしてくらくらしそうだ。
「お付き合いしてるんなら、こんな誤解されるようなことはしちゃ駄目だよ」
「は?付き合い?」
ミナトとは連絡もやり取りしているし、一緒に出かけもするけどそんな仲じゃない。何を勘違いしてるんだ……と反論しようとして、それが自分の言った言葉だと思い出した。
あの時は、薫があいつに笑いかけるのに腹が立って腹が立って……いつもみたいにオレのことで感情が動けばいいなって、それだけの考えで出た言葉だ。
そもそも、ミナトとのマッチングだって薫に振られて自暴自棄になったからだし。
「不誠実なことは、しちゃ駄目だよ」
めっと叱られて落ち込みそうになったけれど誤解は誤解。
どう言ってその誤解を解こうかと眉間に皺を寄せたと同時に、オレと薫の境目で小さな振動がした。
「 っ」
「えっと……電話?」
無視しようとしたけれど、薫自身が無視できない質なせいかオレを見て「出たら?」と促してくる。
何度か出るか出ないか葛藤して、このままだと呼び出しが切れた後に薫に怒られるんだろうと思ったら、自然とポケットから携帯電話を出してボタンを押していた。
「喜蝶くんっ!助けてっ!」
キンッ と耳に来るような泣きそうなミナトの叫びは、オレだけじゃなくて薫にまで届いたようだった。
小高い丘の上を登りきると、空の青さと緑とに映えるオレンジと白の建物。
丘の一角を切り崩して作られたそこはミナトの通う芸術大学だった。
緩い坂をバスに揺られながら登っていると、とうとう負けてしまったのかコテン と薫の頭が肩に凭れかかってくる。
重くも軽くもないその心地い重みに飛び上がりたいのをぐっと堪えて、振動でずれないように と建前をぼやきながらその肩に手を回す。
そうすると一瞬乱れた呼吸が安心したようにすぅすぅと健やかな物に変わった。
このまま、降りずにぐるりと駅まで戻ろうか……
なんて馬鹿げた考えも浮かんだけれど、校門の前で大きく手を振っている作業着姿のミナトを見つけたらそうもいかなかった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる