OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
336 / 801
花占いのゆくえ

26

しおりを挟む



 羨ましい……とは思わないけど、そう言う家庭もあるのか と改めて知らされた気がして、なんとなく苦い思いに顔をしかめた。

「大きくなれないよ?」
「おっきくなるにはお前が食べないとだろー?」
「むっ人が気にしてることっ」

 ぷぅっと頬を膨らましながらも、六華はさっさと弁当包みを開いて蓋を開ける。
 もう少し肉が欲しいなと思わせるけれど、色合いやバランスの考えられたそれについ目が行った。

「うまそ 」
「美味しいんだよ!半分あげる」
「箸もないしいいよ、ほら、薫が待ってんぞ」
「あ  う、じゃあ、急いで食べて!」
「は⁉」

 弁当用の少し小さめの箸を器用に持って、卵焼きを掴んで口元へと突き付けてくる。

 明るい黄色の、甘いのかな?と思わせるそれはいい匂いがして、つい反射で口を開けた。

「ん?」
「美味しい?これはね、俺が焼いたんだよ?」
「なんで甘くないの?」

 怪訝にそう言うと、六華の方が微妙な顔をする。

「なんで卵焼きが甘い必要あるの?」

 何言っちゃってんの?的な雰囲気に少し怯みそうになったけれど、卵焼きは甘い物じゃないのか?

 薫が作ってくれる卵焼きは毎回甘くて、何度もおかわりが欲しいとねだるほどうまい。

「出汁かお塩かの一択でしょ?」
「二択になってんぞ」
「んんっ こっちのミートボールも美味しいんだから!」

 言葉を紡ごうとした口にむぎゅっと肉団子を押しこまれて……これは甘酸っぱくていい感じだった。

「お芋煮たのも美味しいんだよ!」

 あーんして!と自分の口を大きく開けながら迫ってくるので、仕方なく口を開けてやるとそこにぎゅっと詰め込んでくる。
 小さく首を傾げながら、オレの感想を待っているようで……

「  ん。美味いよ」

 ぱぁっと満面の笑顔を見せて満足そうな六華に苦笑を漏らしそうになって顔を背けると、目の端に慣れ親しんだ姿が見えた。
 赤みの引いていない顔を不安そうに歪めて、視線が合ったせいで渋々と言った感情を必死に隠そうとしながらそろそろと近づいてくる。

 あからさまに避けられないのはほっとするが、いかんせんその態度はチクチクと胸を刺す。

「……ほら、薫が迎えに来たぞ」
「薫!あっ、えっと、すぐ行くから待ってて!」

 オレの頬を掴んでおかずをぎゅっぎゅっと詰め込みながら慌てて言う六華を押し退けて、もういいからと言って薫の方へと押した。

「あと!あとこれもっ!あーん!」

 箸の先には綺麗な色のピーマンが挟まれていて……

 苦手なそれに思わず要らないと言おうとしたが、きっとこいつは栄養だなんだと口に突っ込んでくるに決まっている。
 幸い飲み物は残っているから、仕方なしに大人しく口を開いた。

「これも美味しいでしょ?仁はね、これだとピーマン食べてくれるんだ!」

 ふふふ と勝ち誇った笑顔だが、ごまかすように味付けはされていても苦い物は苦いしピーマンはピーマンだ。


「   ────俺がいくら言っても 食べないくせに」


 嫌々咀嚼して飲み下そうとしたオレに、そんな声が聞こえてきた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...