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花占いのゆくえ
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しおりを挟む「 ────とうっ!」
皮膚がぴりぴりするほどのフェロモンを切り裂いて、子供の掛け声のような声が耳に届いた瞬間、視界がぐらりと揺れて膝が固い地面に勢いよく激突したのがわかった。
薄い皮膚と砂利が擦れて鈍い音が伝わって来る。
「いっ たぁっ!」
「おっはようございますぅ父兄の方でしょうか?ワタクシこの学校の教師で喜蝶くんの担任をしている者なのですが 」
膝をついたのにすぐ傍にある童顔に見覚えがあったので、「虎徹せんせぇ」と名前を呼んだ。
「大変申し訳ございませんこちら昇降などの短時間の駐車のみに使われる場所でしてお手数だとは思うのですが移動をお願いしてもよろしいでしょうか?あちらの棕櫚の木の向こう側が駐車場となっておりますのでそちらに止めていただきますと他の生徒の登校にも邪魔になりませんしゆっくりお話をしていただけると思いますぅ」
一息で言い切り、オレを見ないままににっこりと忠尚に笑いかける。
「 あ、いえっ大丈夫です、もう用事は済みましたので」
忠尚はそう言うと、青い顔のままくるりとハンドルを回してそろりと走り出した。
持ち主同様の微妙に野暮ったく思える車を見送った後、膝をついた状態でやっと視線の合う虎徹を見る。
「虎徹せんせぇ、膝カックンはないですよ」
勢いよく地面に膝をついたせいか、足元の大きな砂利で膝を思い切り打ってしまった。捲るわけにもいかないので確認はしていないけれど、血が出ないまでも皮がむけているかもしれない。
「喜蝶くん!」
霧散したフェロモンの残りを振り払うように勢いよく虎徹が振り返り、ちんまりとした人差し指を立ててオレの目の前へと突き出した。
「僕は怒ってますよ?」
「え、あ、何が? で すか?」
すっとぼけようとしてうまく言葉が出なかった。
「父兄にメンチきったことです!」
「ああ はい?めんち?」
「ガン飛ばしたでしょ!」
「あ、はい」
とりあえず膝が痛いので立ち上がろうとするも、虎徹が首を振って座り直すように促してくる。
「や……痛いんですが」
「立つと視線が合わなくなるでしょ!」
だからって砂利の上に正座させないで欲しい。
「いいですか?アルファっているだけでも存在が威圧的なんです。力も、体格も態度も上の人間が無闇矢鱈にそれを使って脅しをかけると言うのはいい事じゃありません」
「はーい」
αの存在感によるプレッシャーについては、小学生から習う事柄で、今更どうこう言い聞かせられなきゃならない事柄でもない。
そんな考えが顔に出ていたのか、虎徹はどんぐり眼を吊り上げて睨みつけてくる。
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