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青い正しい夢を見る
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しおりを挟む「野村さんの傍にいれたらなって、思います」
「え?」
チャンスを放り出す僕の言葉に、野村さんがぱちりと目を瞬かせた。それと同時に聞こえてきた甲高いヒステリックな奥様の声に、びくりと怯えてから慌てて僕を見つめた。
「ど う して?」
「 僕には……良く分からないんだけど 」
手当てをしてくれた際の優しい手つきを思い出し、湿布の上に巻かれた包帯に指を這わせる。
そこは熱を取る為にひやりとしているのに、なぜだか温かい気がした。
「 お母さんは、こんな感じかな って」
自分なんかが野村さんを「母の様だ」なんて言うのはおこがましいにも程があるのは良く分かってる。言われた野村さんも困ってしまうだろうなと言う事も分かっているのに、どうしてもそう告げたくて口に出してしまった。
「だから、 」
「 っ 」
エプロンを掴んで突っ伏した野村さんの表情が見えなくて、そんなに嫌な事を言ってしまったのかと血の気が下がったけれど、小さく漏れる嗚咽の合間に「ありがとう」と小さく聞こえて、彼女が嫌がっていない事が分かった。
それが、ほっとして。
俯いて泣く野村さんを抱き締めて、胸に灯った温もりを感じていた。
青い世界は小さな波に揺れていて、小さなボートはもっと揺れる筈なのに伊藤くんを見る視界がぶれる事はなく、静かに凪いだままだった。
「 野村さんって人がね、優しいの」
「うん」
夢の中の伊藤くんは会った事のない人の話をしても、穏やかに聞いてくれる。
「僕に、ここから逃げなさいって」
「どうしたい?」
「どう?」
これは、現実で野村さんとしたやり取りだ。
夢は記憶の整理と聞いた事があるけれど、こう言う事なのかもしれない。
「出て 行きたい。正美さんがいなくなってから、ここにいなきゃって言う漠然とした義務感みたいなのが無くなってて……」
結局、子供も産めなかった自分はここでは役立たずだったし、正美さんが亡くなった以上このままこの家にいても清水の血を引く子供を産むなんて出来ないのだから。
「出て、行きたいけど 」
言葉が続かない僕を伊藤くんは急かす事はしない。
頬に緩く触れて、くすぐったいと思うような柔らかな動きを繰り返すだけだ。
「野村さんが心配?」
「 うん」
「優しいなぁ」
にっかりと笑う伊藤くんの表情に釣られて、僕の唇も自然と弧を描く。
「じゃあ、二人で行けばいいのに」
「ふた ふたり ?でも、保護施設はオメガじゃないと 」
「医者は保護してくれる人って言ってただろ?」
「あっ」
渡されたメモの番号も携帯電話の番号だった。
「ダメ元って言葉もあるしさ」
そう言うと伊藤くんはまた僕の頬をくすぐるように撫でた。
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