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青い正しい夢を見る
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しおりを挟む「や、なんでもないんです!」
慌ててそう言って、泡を流し終えた皿を差し出そうとして息が詰まった。
「 ────っ」
く っと、何か飲み下せない程大きな物を喉に入れてしまったような、食道も気道も塞がれて息を吸う事も吐く事もできない苦しさに、一瞬で指先の力が抜けて濡れた皿が足元に落ちて行く。
────!
割れる音が聞こえた筈なのに、息のできない苦しさと耳の中でドクドクと言う早い鼓動の音に紛れて何も分からなかった。
砕けた皿と、それの飛び散る白い破片と、
様子のおかしさに野村さんが声を掛けて肩を揺さぶってくれたけれど、僕はまともな返事が返せないまま血の気の引いて行く手足の冷たさを感じていた。
一つの電話と、それを受けた奥様の取り乱し様と……
大奥様が卒倒されて、旦那様が焦ってその介抱をされているのを眺めながら、僕は腰が抜けて廊下に座り込んでいた。
「 何かの間違いじゃ っ」
電話に対してそう言い返す奥様の言葉が無くなり、口元だけが音もなくハクハクと動く。化粧をしていても分かる程顔色を無くしてただただ受話器を見詰める姿を床から見上げて、奥様達と同じ様に途方に暮れてぼんやりとするしか出来なかった。
電話の内容は、正美さんの訃報を告げる物で……
奥様達の会話で事故だったとは分かったけれど、家族でもない僕は葬式に出る事も許されなくて、やはり酷い顔色で泣いている野村さんと寄り添い合って待つしかできなかった。
急に老け込んだ様に見える大奥様と、憔悴して泣き続ける奥様達は声を掛けるのも憚られる程の落ち込み具合で、たった一人の子供であり孫でもあった正美さんを亡くした心痛さは、言葉を介さなくてもこちらに十分伝わってくる程だ。
しゃんとした背筋で僕達よりも動きは機敏だった大奥様が、窶れて白髪の増えた髪を整えもしないで項垂れていると幽鬼の様で、そのままこの屋敷に吸われて消えてしまうのではないかと思わせる。
奥様達は昔の正美さんの写真に縋り、遺骨を分けて貰えなかった事、葬式に出たのに参列を許されなかった事、顔を見る事すら叶わず追い返された事になどについて延々と、涙ながらにあのβは鬼だ と嘆き続けていた。
「『おえが』」
歯の抜けた口では『オメガ』とうまく発音できないらしい。
大旦那様は僕を呼ぶ時は必ずそう呼んで、蔑みの目で足元から頭までをじっとりと睨みつけた。
「食事が出来ました。遅くなってすみません」
タオルとおしぼりと、当たっても怪我しないように柔らかな素材でできたスプーンを持って大旦那様の傍らに座り、良く煮込んで柔らかくなった野菜をひと掬いしてふぅふぅと息を吹きかけて冷ます。
「『おえが』 」
「 はい、僕はオメガです」
逆らってはいけない と野村さんが教えてくれたので、会話は大那様の言葉を繰り返す形が多かった。
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