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青い正しい夢を見る
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しおりを挟む深い青は澱だ。
そこに沈み込むと呼吸が出来なくて苦しくて、視界は見えなくて不安で堪らないけれど、何も聞こえず見えず……ただただ静かな青があるだけで心は凪いで静かだった。
寂しい とは、思わない。
僕の沈み込む動きだけで静かに舞う澱は、眠りが深くなるにつれて動きを止め、沈殿し、やがて僕に降り積もる。
そこに埋もれてやっと、僕は眠りに就ける。
けれどその日は、死んだように息を潜めている僕の前髪が、そよ と何かに乱された。
「 ?」
澱が揺れて頬を何かが撫でる。
「 見つけた」
それは、力強くて強引で。
でも温かくて頼もしかった。
体を何かに引っ張られて体が軋む音を聞いたような気がしたけれど、その音も一気に肺に空気が流れ込んでくる衝撃にどこかに吹き飛んでしまった。
「なに 」
髪から雫が垂れて波紋が広がり、水面に映る僕の姿を崩していく。伸ばしたままだった腕の先へと視線をやって、あり得ない人物が腕を掴んでいる事に息を飲んだ。
「 伊 藤くん?」
驚いた僕のせいで青い青い水に波紋がどんどん広がって……
やがてそれは波のように緩く僕達の体を揺さぶって、微かな 海の香りを嗅いだような気がした。
目覚めた際に、手首にまだ彼の温もりが残っているような気がしてそこに触れた。
僕は体温が低いせいか指先で触れたそこはあっと言う間に冷えてしまって、夢の温もりを辿る事はできなかったけれど、確かにそこに彼の体温を感じる。
「 夢、だよね?」
思わず手の甲で頬を押さえると、じんわりとした温もりが手を温めた。
「おはようございます、昨日のところ、やっぱり痣に 」
「目立ちますか?」
「少し 」
でも手品のように消せるわけもなくて、こればっかりはどうしようもない。
「こんな日なのに 」
そう言う野村さんに苦笑を返す。
今日は 発情期が始まる日だ。
医者での記録と抑制剤のお陰で周期は把握できていて、その予想が外れる事はほぼない。
今夜また、正美さんが来る。
そう、あんな事があったのに彼はまだ 僕を抱きに来ている。
ただただ不機嫌な顔で来て、汚物でも見るような嫌悪感を隠しもしない目で僕を見下ろし、僕が暴れないように両手を縛り……顔を見たくないと殴られた事もあったので、僕はただ俯せて腰を上げた状態で彼がナカに吐き出して出て行くのを待つだけなのだけれど。
僕の首を噛んだ事を隠すよりも、自分の家族を認めて貰うように働きかけた方が建設的だし、平和解決だと思うのに、彼は三か月に一度僕を抱く事で隠し通す事を選んだ。
そして僕も、二つの理由で出て行く事もせずにここに留まり続けていた。
鎖で繋がれているのではないし、こんな扱いをされ続けるのは辛いし苦しいと思うのに、頭なのか心なのかよく分からない気持ちの部分で少しでも番の相手と関わっていたくて……
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